筋肥大と 体脂肪減少 の両立は可能か

[記事公開日]2018/01/02
[最終更新日]2020/04/04

“体脂肪を落としながら筋量アップ(筋肥大)を目指す方法がインターネット上ではたくさん公開されている。

試しに“筋肥大”、“減量”、“同時”の検索ワードで検索してみても、“体脂肪を落としながら筋肥大を実現する方法”を簡単に見つけることができる。


 

しかし、体脂肪減少と筋肥大を同時に行うことができるなら、筋量増大のプロ中のプロであるボディビルダーがなぜこの手法を取り入れないのかが非常に不思議である。

 

 

筋肥大 と 体脂肪減少 の両立が可能であると主張する論文も発表されているが・・・

体脂肪減少

 

確かに、2015年に発表された研究[1]によると、高タンパク質の食生活(3.4 g/体重1kg)と高強度トレーニングを併用して行ったところ、体脂肪量が減少し、筋肉量が増大したと報告されている。

 

しかし、調査が短期間(8週間)であることに加えて、体脂肪減少量が極めて微量であることを考慮すると、被験者らはリーンバルク(体脂肪をほとんど増やさずに筋肉量だけを増やす増量法)に極めて近い食事管理を行っていたと推測することができる。

 

そこで次のような疑問が生まれる。

 

疑問1. 体脂肪減少 と筋肥大を両立することは可能なのか

3分割の筋トレ

 

回答
 特殊な例を除き、一般的に起こり得ない。

 

理由は次の通りである。

 

筋肥大(筋量アップ)には、摂取カロリー>消費カロリーとなる食事管理が必要であり、

体脂肪減少には、消費カロリー>摂取カロリーとなる食事管理が必要となる。

 

➡つまり、筋肥大と体脂肪減少は、通常、同時に達成することは極めて困難なのである。

しかし、次に示す一定の条件下では、筋肥大と体脂肪減少の同時達成は比較的容易であることが複数の研究報告により明らかとなっている。

 

 

筋肥大と 体脂肪減少 は一定の条件下のみで同時に達成可能

有酸素運動と筋トレ

 

筋肥大と体脂肪減少が同時に起こり得ると主張する論文はこれまでに幾つか発表されているが、これらは一定の限られた条件下における結果であることに留意しなければならない。

その限定的な条件というのが以下の4つのケースである。



筋肥大と 体脂肪減少 が同時に起こり得る4つのケース

減量期のトレーニング
  1. トレーニング初心者もしくは未経験者の場合
  2. トレーニング歴があり、かつトレーニングを一時的(長期的)に中断していたトレーニーがトレーニングを再開した場合
  3. 超肥満体質の場合
  4. ナチュラルトレーニーではない場合

 

これらの条件について順番に詳しく見ていこう。

 

1.トレーニング初心者もしくは未経験者の場合

 

トレーニングの初心者もしくは未経験者の場合、ニュービーゲインという言葉があるように、トレーニングの刺激に慣れていないため、筋肉量を非常に増加させやすい環境にあり、体脂肪量を減らしながら筋量アップを行うことが一時的に可能であることが研究報告により分かっている。

 

しかし、この現象は一過性のものであり、継続的に起こり得るものではない

 

 

2.一時中断していたトレーニングを再開した場合

 

トレーニングを一時中断してもマッスルメモリーにより、短期間で素早く筋肉量を回復させるとことができる。

マッスルメモリーとはその名の通り“筋肉の記憶”であり、一度大きく成長した筋肉トレーニングの中断により衰えて萎縮した場合でも、トレーニングを再開すれば短期間のうちに以前の筋肉量まで回復させることができるというものである。

いったん筋肥大が起これば、筋繊維中に存在する“筋核”と呼ばれる核の数が増加し、筋核数はそう簡単には減少しないことが分かっている。

 

➡ゆえに、中断していたトレーニングを再開すれば、この筋核を再び生成するプロセスを省ぐことができるため、筋繊維を以前の大きさまで短期間のうちに回復させることができるのである。

 

 

3.肥満体質の場合

 

肥満体質の場合、活動に必要となるエネルギー源が脂肪から多く取り出されるので、食事制限下においても筋タンパク質合成に必要となるエネルギーが脂肪から供給され、体脂肪減少と筋肥大が同時に起こり得ることが複数の研究により示されている。

しかし、体脂肪量が減少すると、脂肪酸から取り出されるエネルギー源も同時に減少するため、痩せながら筋肥大を達成するのは困難となる。

 

 

4.ナチュラルトレーニーではない場合

(この記事にはふさわしくないので割愛)

 

このように、筋肉量増大と体脂肪減少の両立は、上記のような特殊な条件を除き、トレーニングを継続的に行っている者に対しては一般に起こり得るものではないと言える。

 

 

疑問.2 トレーニング経験者が、体脂肪を減らしながら筋肉量の増大を達成したという報告はあるのか

 

回答
 あるにはあるが、これも一定の条件下においてのみである

 

詳細は次の通りである。

 

詳細は割愛するが、2011年に発表された研究報告[2]によると、アスリート選手(男女)を対象として上記同様の実験が行われたが、体脂肪減少と筋肥大増大の両立が認められたのは女性アスリート選手においてのみであり、これは実験開始時の女性アスリート選手たちの体脂肪が高いために、体脂肪減と筋肥大が同時に起こり得たと考えられている。

 

その他にも、体脂肪減と筋肥大の両立を主張する論文がいくつか発表されているが、いずれの論文においても、被験者らがトレーニング初心者に分類されるレベルであり、我々にこれらの結果を単純に当てはめることは適切でないと考えられる。

そこで我々がチョイスできるベターな策として考えられるのが、リーンバルクである。

 

 

リーンバルクは筋肥大に合理的な増量方法

リーンバルク

 

リーンバルク(Lean Bulk)とは、体脂肪を極力付けずに筋肥大を行う方法である。

リーンバルクの方法についてはこちらの記事で詳しく紹介しているのでご覧いただきたい。

大まかな流れとしては次3ステップ。

 

リーンバルクの3ステップ

 

1.まず減量する

減量期の摂取カロリー

 

現在の体脂肪率が15%を超えている場合は、体脂肪を10%~13%まで下げる。

体脂肪を減らすことに複数のメリットがあるので、まずは体脂肪を10%前半まで減らすことから始める。

言い換えると、体脂肪率が高い状態で筋肥大を行うのは非常に効率が悪い。

 

 

2.リーンバルクに必要なカロリーの計算

 

体脂肪を極力増やさずに筋肥大を達成するための“1日に必要な摂取カロリー数”を計算する。

一般に、トレーニング経験が4年を超える上級トレーニーの場合、1ヶ月間に増やせる筋肉量は体重の0.25~0.5%程度であると言われている。

つまり、体重が約80kgの私であれば、1ヶ月間に増やせる筋肉量は200~400 g程度となる。

 

➡したがって、計算によって導き出した“カロリー数”を日々食事から摂取し、週単位で体重の増減を追跡し、月当たりの体重増加量が上記で見積もった“1ヶ月で増やせる筋肉量”と同じ、もしくは、その値を少しだけ上回るペースで増量が進んでいることを常にモニタリングするのである。

 

これにより、体脂肪量が急激に増えるのを防ぐことができる。

 

 

3.脂肪率が15%程度に達したら、ステップ1の手順(減量)を行う

 

リーンバルクを行ったとしても、少しずつ体脂肪量が増えるのは不可避なので、3~6ヶ月単位で、体脂肪を初期値に戻すためのミニ減量を行う必要がある(必須ではないが)。

上記のサイクルを繰り返すことにより、年中を通して低体脂肪率を維持しながら、筋肥大を最大限に加速させることができる。

低体脂肪率を維持することで得られるメリットについては、<体脂肪を増やさずに増量するリーンバルクのメリット(対ダーティーバルク)>のページをご覧いただきたい。

 

勘違いしてはいけないのが、増量期だからと言って“ドカ食い”すれば筋肥大が加速する訳ではないということである。

リーン(低体脂肪)を維持しながら筋肥大を目指すことで、効率的に筋肥大を加速させることができるのだ。

<参考>筋肉量を減らさずに体脂肪だけを効率的に落とす減量のポイント5つ

 

結論
体脂肪を落としながら筋肥大を目指すのではなく、リーンバルクにより低体脂肪率を維持しながら筋肥大を実現するのが最も合理的な選択である。

 

<参考><リーンバルク>脂肪を増やさずに筋肉量を増やす増量方法の具体的方法



こちらの記事もオススメなので是非ご一読下さい。

参考文献

[1] Antonio J, et al (2015) A high protein diet (3.4 g/kg/d) combined with a heavy resistance training program improves body composition in healthy trained men and women–a follow-up investigation

[2] Garthe I, et al (2011) Effect of two different weight-loss rates on body composition and strength and power-related performance in elite athletes.