期肥大の成果を大きく左右する要素はいくつもある。
ワークアウトサイエンスでは、これまでに筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出すための各要素、
について詳しく解説をしてきました(クリックで各ページに移動します)。
なお、この最新の理論は、トレーニング上級者向けで、かつマニアックな内容となっていますので、筋肥大効率を最大限に高めるレップ数の基本について知りたい方は以下の関連記事をご覧ください。
それでは「オールアウト前の5レップが筋肥大を誘発する」理論を見ていこう。
コンテンツ
筋肥大を誘発する3つのメカニズム
筋肥大を引き起こすメカニズムは3つあるとされる[1]。
それらのメカニズムというのが以下の3つである。
- メカニカルテンション
- メタボリックストレス
- マスキュラーダメージ
上記の筋肥大を引き起こすの3つのメカニズムについて簡単に補足をしておこう。
まず、メタボリックストレスは低負荷高回数で筋収縮を繰り返えし筋肉をパンプアップさせることで誘発される。
また、マスキュラーダメージは、ネガティブ動作(エキセントリック収縮)をゆっくりと行うか、定期的にトレーニング種目を変えてより多角度からターゲット部位を刺激することで誘発される。
メカニカルテンション
そして、筋肥大を誘発する上で最も重要とされるメカニズムがズバリ「メカニカルテンション」である。
そして筋肉は、ある一定レベルを上回るメカニカルテンションを受けると大きく成長することが分かっている。
別の言い方をすれば、ある一定レベルを上回らないメカニカルテンション(=弱い刺激)をいくら筋肉に与え続けても筋肉は大きく成長しない。
そして、ある一定レベルのメカニカルテンションを生み出すには、
- 高重量でトレーニングを行うこと
- 中重量のウエイトでオールアウトまで挙上を繰り返すこと
のいずれかの方法を選択する必要があることが分かっている[2][3]。
高重量のウエイトを持ち挙げようとするとき、そのウエイトをいくら爆発的に速く挙上させようとしても、ウエイトは非常に重いので速く持ち上げるのは難しく、結果的にウエイトの挙上スピードは遅くなる。
このように、筋肉がウエイトからの強い負荷を受け、なおかつウエイトの挙上スピードが低下した状態は、より多くの筋線維がその動作に関与し、それらが最大限の力を発揮した状態となるため、メカニカルテンションは顕著に増大する。
したがって、このような一定レベルを上回るメカニカルテンションを筋肉が受けると、筋肥大が効果的に誘発されるのである。
逆に、ウォームアップのような軽いウエイトで何度でも挙上反復できるような場合は、筋肥大の効果は薄いと考えられる。
そして、この理論では、筋肥大を誘発するレップ数のみを有効なレップ数として考慮し、トレーニングボリュームを計算するのである。
例えば、同一セット内でも、1レップ目とオールアウト直前のレップが筋肥大にもたらす影響度は大きく異なる。
当然のことながら、1レップ目が持つ筋肥大への効果は薄く、オールアウト直前のレップが筋肥大に与える効果は非常に大きい。
そして本理論の提唱者は、この筋肥大に有効なレップ数のことを「stimulating reps:スティミュレイテイングレップス(=筋肥大を誘発するレップ)」と呼んでいる。
本理論におけるトレーニングボリュームの考え方
先述の通り、この理論では筋肥大を誘発するレップ数(=以後、筋肥大誘発レップとする)のみを有効なレップ数として考え、トレーニングボリュームを計算する。
また、筋肥大を誘発する条件として、
- 大きな運動単位(モータユニット)が動員されること
- ウエイトの動作スピードが低下しオールアウトに近づくこと
の2点を考慮し、筋肥大誘発レップを定義する。
まずは以下のグラフをご覧いただきたい。
縦軸は、RM(Repetition Maximun:最大反復回数)を表し、横軸は各RMにおける総レップ数のうち、筋肥大誘発レップ数とそうでないレップ数の割合を示している。
例えば1~5 RMの高負荷ウエイトの範囲では、全てのレップが筋肥大誘発レップとなり、濃い赤色のブロックで示されている。
そして、5 RM以上の中・低負荷ウエイトの範囲では、オールアウト前の5レップが筋肥大誘発レップ(濃い赤色)となることを示している。
また、1~4 RMの高負荷ウエイトを扱う場合、5 RM以上のウエイトを使用する場合よりも筋肥大誘発レップ数は少なくなるため、中・低負荷のウエイトを使用した場合と同様の筋肥大誘発レップ数を確保するには、より多くのセット数をこなす必要がある。
オールアウトさせない場合のトレーニングボリュームの考え方
前回記事<オールアウト は筋トレに必要か?>でも紹介したように、効率的に筋肥大を目指すには、セットの度に限界まで追い込んでオールアウトさせる方法は得策ではない。
オールアウトさせるセット数をむやみに増やすと、疲労の蓄積が加速するだけでなく、トレーニングパフォーマンスの低下を招き、最終的に筋肥大効率が低下することが報告されているからだ[4]。
そして我々がトレーニングを行う場合、オールアウトする一歩手前(限りなくオールアウトに近い)のところまででそのセットを終えることが多いはずである。
以下のグラフをご覧いただきたい。
先程のグラフと同様、縦軸はRM(Repetition Maximun:最大反復回数)を表し、横軸は各RMにおける総レップ数のうち、筋肥大誘発レップ数とそうでないレップ数の割合を示している。
そして、このグラフでは、オールアウトの1レップ前でセットを終了した場合の筋肥大誘発レップ数を表している。
グラフからも読み取れるように、オールアウトの1レップ前でセットを終了した場合、筋肥大誘発レップ数は(5-1=)4レップ(濃い青色で示されたブロック)となる(5 RM以上のウエイトを使用した場合)。
また、オールアウトの2レップ前でセットを終了した場合の筋肥大誘発レップ数は(5-2=)3レップとなる(5 RM以上のウエイトを使用した場合)。
オールアウトの3レップ前でセットを終了した場合も上記と同様に考えて、筋肥大誘発レップ数は(5-3=)2レップとなる。
トレーニングボリュームを実際に計算してみよう。
ここからは本理論を具体的なトレーニングメニューに適応して、トレーニングボリュームを実際に計算してみよう。
ストレートセットの場合
同じウエイトを使用して複数のセットを行うため、前半のセットではオールアウトに達することなくそのセットを終えることになるが、セットを重ねていくにつれて疲労が蓄積するためオールアウトに近づき、セットを重ねるにつれ、筋肥大誘発レップが増加する。
例)1 RMの70%のウエイトを使用して、10レップ×5セットのベンチプレスをストレートセットで行う場合を考えてみよう(セット間インターバルは5分とし、十分に設ける)。
前提:ストレートセットでは各セットを10レップで終えるのであった。
1セット目はオールアウトさせれば17レップこなせるであろうが、10レップでこのセットを終える。
つまり、オールアウトの7レップ前でセットを終えることになるので、筋肥大誘発レップ数は0となる。
2セット目はオールアウトさせれば15レップこなせるだろうが、10レップでこのセットを終える。
つまり、オールアウトの5レップ前でセットを終えることになり、筋肥大誘発レップ数は0となる。
3セット目はオールアウトさせれば13レップこなせるだろうが、10レップでこのセットを終える。
つまり、オールアウトの3レップ前でセットを終えることになるので、筋肥大誘発レップ数は(5-3=)2となる。
4セット目はオールアウトさせれば12レップこなせるだろうが、10レップでこのセットを終える。
つまり、オールアウトの2レップ前でセットを終えることになるので、筋肥大誘発レップ数は(5-2=)3となる。
5セット目は10レップ目でオールアウトする。
つまり、筋肥大誘発レップ数は5となる。
そして、各セットの筋肥大誘発レップ数を全て足し合わせると(0+0+2+3+5=10)となり、このストレートセットを行った場合の筋肥大誘発レップの総数は10と計算することができる。
例えば、12 RMのウエイトを用いて3セット行い、その全セットをオールアウトさせて行った場合の筋肥大誘発レップの総数は5×3=15となり、上記のストレートセットで5セット行う場合よりも筋肥大の効果は高いことが分かる(もちろん、3セットオールアウトの方が疲労度が高くなると考えらえるが)。
ドロップセットの場合
ドロップセットが、インターバルを設けて行う通常のセットに比べて筋肥大効率を向上させるとの研究報告[5]も発表されているが、ドロップセットを対象とした全ての研究報告がこの結果をサポートしているわけではなく、ドロップセットと通常のセットのどちらが筋肥大により効果的であるかを決定することは今のところ出来ない(これら2つのテクニックを組み合わせてトレーニングプログラムを組むのが筋肥大には最良の選択である)。
例えば、セット間のインターバルを設けないドロップセットの場合、筋肉を十分に回復させることが難しくなるため、結果としてトレーニングボリュームが減少し、筋肥大効率が低下する可能性が示唆されているのだ。
話が横道に逸れそうなので元に戻すが、今回の理論をドロップセットに適応する場合は、ウエイト挙上が限界に達し、ウエイト重量を下げる度にオールアウトさせたものとして考えて筋肥大誘発レップ数を数える。
異なるトレーニングテクニックをどのように比較するか
本理論では、トレーニングテクニックが異なったとしても、各テクニックにより得られる筋肥大誘発レップが同数である限り、ほぼ同じ筋肥大の効果が得られるものと仮定している。
(しかしながら、これは各トレーニングテクニックが全く同一の効果を有すると決めつけるものではない。)
また前述の通り、オールアウトを多用するトレーニングプログラムでは、通常よりも疲労が蓄積しやすく、筋肉の回復により多くの時間を要するため、高頻度でトレーニングを行う人の場合は特に、オールアウトの扱いには注意が必要となる。
同様に、多くのレップ数およびセット数が必要となるトレーニングプログラムを組んだ場合においても、疲労が蓄積しやくすなり、上記同様の問題が生じるため、この場合も注意が必要となる。
こうすることで、オーバートレーニングを防ぎながら高頻度でトレーニングの実施が可能となり、結果として最も効率的な方法で筋肥大を実現させていけると考えられるのである。
同じ筋肥大誘発レップ数でも様々なトレーニングバリエーション
(全セットをオールアウトさせるトレーニングプログラムが良いか悪いかは別として)、本理論によれば、3セット全てをオールアウトさせる場合(筋肥大誘発レップ数:15)と、10レップ×5セットのストレートセット行う場合(筋肥大誘発レップ数:10)では、前者の方が筋肥大効率は高いと言える。
また、同一量の筋肥大誘発レップ数を確保する場合であっても、トレーニングプログラムの組み方は無数に考えることができる。
この場合に考えられるトレーニングプログラムの組み方はざっと以下の5通りある。
※カッコ内の太字の数字は筋肥大誘発レップ数
- 3段階ドロップセット(5+5+5=15)→オールアウト3回(総レップ数:30)
- 3セット全てをオールアウト(5+5+5=15)→オールアウト3回(総レップ数:30)
- 1セット目オールアウト+2段階ドロップセット(5+5+5=15)→オールアウト3回(総レップ数:30)
- 4セット全てをオールアウトの1レップ前で終える(4+4+4+4=16)→オールアウト無し(総レップ数:36)
- 5セット全セットをオールアウトの2レップ前で終える(3+3+3+3+3=15)→オールアウト無し(総レップ数:40)
このように、同一量の筋肥大誘発レップ数を確保する場合であっても、そのトレーニングプログラムの組み方はさまざまでなのである。
そして、上記の要領で、効率的かつ自分に最もしっくりとくる方法で筋肥大誘発レップ数を確保するようにトレーニングプログラムをデザインしていくのが今回紹介した理論の主たる狙いである。
オールアウト前の5レップ 理論のまとめ
今回は筋肥大を誘発するレップ数にのみ着目し、トレーニングプログラムをデザインする【オールアウト前の5レップが筋肥大を引き起こす】理論を紹介しました。
ワークアウトサイエンスでは、筋肥大の成果を左右する主要ファクターはトレーニングボリューム(レップ数×扱うウエイト重量×セット数)であることをこれまでにも何度も紹介してきましたが、今回紹介した理論では、筋肥大の成果を左右するのは単なるレップ数でなく、筋肥大を誘発するレップ数を選択的に考慮するという新しいモデルを導入しており、非常に興味深い理論だったので今回は読者の皆様に紹介しました。
本理論におけるポイントを以下にまとめておくので是非、トレーニングプログラム作成の参考にし、より筋肥大に効果的なトレーニングプログラムを作成してみてください。
本日のTAKE AWAY
- オールアウト前の5レップが筋肥大を誘発する
- オールアウトさせ過ぎると疲労蓄積が加速するので注意
- オールアウトさせなくても筋肥大は可能だが、より多くのセット数をこなす必要がある
- 本理論ではドロップセットは筋肥大に有効なテクニックである
- ストレートセットでは前半のセットで筋肥大を誘発できない可能性
- 複数のトレーニングテクニックを組み合わせて最良のプログラムを作成するのが良い
参考文献
[1] Schoenfeld BJ, et al (2010) The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training
[2]Hatzel, B., Glass, S. C., Johnson, S., & Sjoquist, H. (2013). Effects of Lift Velocity on Muscle Activation During Leg Extension
[3]Sakamoto, A., & Sinclair, P. J. (2012). Muscle activations under varying lifting speeds and intensities during bench press. European journal of applied physiology, 112(3), 1015-1025.
[4] Gandevia, S. C,et al (1998) Neural control in human muscle fatigue: changes in muscle afferents, moto neurones and moto cortical drive
[5]Julius Fink, et al. (2017) Effects of drop set resistance training on acute stress indicators and long-term muscle hypertrophy and strength
[6] Chris Beardsley (2018) How does training volume differ between training to failure, avoiding failure, and using advanced techniques?