ご存知の通り、 筋トレとテストステロン は密接に関わり合っている。
事実、多くのブログメディアでもテストステロンを増やすためのトレーニング方法がたくさん紹介されている。
例えば、テストステロンを効率的に増やすためのトレーニングテクニックの具体例としては、
- セット間のインターバルを短くする
- 大筋群を鍛えるコンパウンド種目を優先する
- マシン種目よりもフリーウエイト種目を優先する
- テストステロン値をより高く引き上げる種目を優先する
といったテクニックが多々紹介されている。また、テストステロンを増やすことに特化したトレーニングプログラムなるものまで紹介されていることもある。
本題に取り掛かる前に、まずはテストステロンの正体について簡単に理解を深めておこう。
コンテンツ
テストステロンとは
テストステロンとは、筋肉増大(タンパク同化)作用を持つアナボリックホルモンのことであり、筋肉および骨格の発達そして性機能の維持には欠かせない男性ホルモンの一種である。
また男性は、女性の場合と比較してテストステロン値が約10倍高く、このテストステロン値の大差が男性が女性に比べてより多くの筋肉を発達させられる主な理由であると考えられている[1]。
また、テストステロンには筋肉増大作用以外にも筋肉の分解抑制作用があることも臨床的に分かっており、筋肥大において非常に重要な役割を担っているホルモンの一種なのである[2]。
テストステロンが増えると筋肉も増える?
テストステロン値と筋肉増大の関係を調査した研究はこれまでにも多くなされている。
例えば、注射等の外部要因によりテストステロン値を正常値を大幅に超えて上昇させた場合、トレーニングを行わなくても筋肉量が顕著に増大し、さらに脂肪燃焼効果も有意義に増大することが諸研究により明らかとなっている[3,4]。
また、別研究[5]においても、テストステロンの値を高く引き上げれば引き上げるほど、より速くそしてより効率的に筋肉量を増大させられることが分かっている。
しかしここで注意しておかなければいけないのは、これらの研究報告では注射等の外部要因によりテストステロン値を大幅に上昇させた場合に筋肉量の増加が認められたことを示すものであり、筋トレの実施により一時的に上昇するテストステロン値が筋肉の増大効果を持つかどうかはまた別問題であるという点である。
テストステロンはホルモンの一種
我々の体の状態は、数多くのホルモンの働きによって維持されている(=内分泌系)。
例えば、体の水分量、血圧、塩分濃度、血糖値が正常値に保たれ、我々が健康な毎日を送れるのも全て内分泌系の働きのおかげと言っても過言ではない。
そしてこの内分泌系は、mTORをはじめとする筋肥大に重要な役割を持つ「シグナル伝達系」の制御にも深く関わっている[6]。
つまり、筋肥大はホルモン(内分泌系)無くして成し得ないのである。
そして、テストステロンや成長ホルモンをはじめとする筋肥大プロセスに直接的に関わってくるホルモンのことをアナボリックホルモンと呼び、これまでの諸研究成果により、このアナボリックホルモンの分泌を効果的に促す具体的方法として以下の4つの方法が示されている。
- 一般的な筋肥大トレーニングを行う(1RMの60~80%の負荷)[7,8]
- インターバルを60~90秒程度に短く設定する[9,10]
- トレーニングボリュームを増やす[11]
- 高レップで筋収縮を繰り返し、乳酸等の代謝物質により筋肉をパンプアップさせる[12]
そして、上記のアナボリックホルモンの分泌を促進する各ポイントを駆使してトレーニングを行うことにより、筋トレにより分泌が増加するアナボリックホルモンが筋肥大を加速させると主張する文献も散見される[13]。
確かに理論的には、筋トレによりアナボリックホルモンの分泌量が増加すれば、アナボリックホルモンが持つ筋肉の増大作用および筋肉の分解抑制作用により、結果として筋肥大を加速してくれそうな気はする(極めて直感的に受け入れやすい)。
そう言える理由を順を追ってみてみよう。
筋トレで増えるアナボリックホルモンは筋肥大を加速させるか
筋トレを行うとテストステロンや成長ホルモンをはじめとするとするアナボリックホルモン値が一時的に上昇するが、このホルモン値の上昇が筋肉量の増大にどの程度の影響をもたらすかについての調査を行った興味深い研究報告がある[14]。
この研究では8名の若年男性を対象にし、アナボリックホルモン値を上昇させるトレーニングとアナボリックホルモン値を上昇させないトレーニングのそれぞれを15週間にわたり行ってもらい、その後、アナボリックホルモン値と筋肥大との関係について調査を行った。
それぞれのトレーニング内容は次の通りである。
- アナボリックホルモン値を上昇させないトレーニング
片腕:上腕二頭筋(ケーブルプリーチャーカール)のみ
- アナボリックホルモン値を上昇させるトレーニング
片腕:上腕二頭筋(ケーブルプリーチャーカール)
+スクワット等の下半身トレーニング
そして被験者らは上記2種類のトレーニングを別日に行い、アナボリックホルモン値を上昇させるトレーニングでは上腕二頭筋トレーニングにスクワットなどの大筋群(下半身)を鍛えるトレーニングを追加してアナボリックホルモンの分泌を促した。
そして実験の意図する通り、下半身トレーニングを併用したアナボリックホルモンを分泌させるトレーニングを行った場合はアナボリックホルモンが顕著に上昇したことが認められた。
そしてこれらの結果を受けて同研究報告では、筋トレにより一時的に上昇するアナボリックホルモンは筋タンパク質合成(筋肉の合成)応答を強める作用はなく、たとえ筋トレによりアナボリックホルモン値が上昇しなった場合であっても筋肉の合成は行われると結論付けている。
また、この研究結果をサポートする同様の研究報告が別機関から複数発表されている[15,16]。
また先ほど、筋トレにより(一時的に)急上昇したアナボリックホルモンが筋肥大を加速させると結論付ける文献も発表されていることを紹介したが、いずれの場合においても、認められた筋肉増加量は統計学的に有意な差があるとはとても言い難く、筋トレにより一時的に上昇するアナボリックホルモンが筋肥大に与える影響は、(あったとしても)非常に小さいと言える。
筋トレとテストステロン についての正しい理解
テストステロンや成長ホルモンなどのアナボリックホルモンは筋肥大の成果に深い関わりがあるのは確かである。
しかし、本記事の冒頭でも紹介したように、テストステロン値が上昇すれば筋肉量も同時に増大するという事例は多量のテストステロンを注射するなどして通常の範囲を超えてその値が上昇した場合に認められる事例であり、筋トレにより一時的にテストステロン値が上昇したとしても、その持続時間は極めて一時的でかつ、その上昇幅も外部からテストステロンを注射する場合に比べて遥かに小さい。
例えば、多量のテストステロンを注射すればテストステロン値は通常値の10倍以上まで増加し、なおかつその値は長時間持続する。
筋肥大を最大化するには規則正しい生活を
そして結論として導き出されるのが、筋肥大の効率を最適化するには、筋トレによるテストステロン値の一時的上昇にこだわるよりも、日頃からテストステロン値を高く維持するように規則正しい生活を心がけることが何よりも大切であるということである。
規則正しい生活とは、睡眠時間を十分に確保したり、バランスの取れた食生活を心がけることである。
また必要に応じてサプリメントを利用するのもテストステロン値を最適化する上で有効な方法となる。
例えば、2011年に発表された研究報告[17]によれば、5日間に渡り睡眠時間が8時間から5時間に減少するだけでテストステロン値が10.4%減少することが分かったという。
さらに栄養のバランスが偏り、亜鉛およびマグネシウムの摂取量が慢性的に不足するとテストステロン値が低下し、不足分をサプリメント等により補うことで低下したテストステロン値が有意義に増加することが研究により分かっている[18]。
このように、規則正しい生活をしている限りテストステロン値は高く維持されるため、問題なく筋肥大効率を最適化することができるのである。
筋トレとテストステロン のまとめ
今回は筋トレとテストステロンの関係について詳しく解説しました。
前述の通り、現在のトレーニング医学の見解では、筋トレによりアナボリックホルモンを増加させても特別筋肥大が加速することはないと考えられているため、本記事の冒頭で紹介したような、
- セット間のインターバルを短くする
- 大筋群を鍛えるコンパウンド種目を優先する
- マシン種目よりもフリーウエイト種目を優先する
- テストステロン値をより高く引き上げる種目を優先する
といったトレーニングテクニックは必ずしも筋肥大を加速させる最良のテクニックではないことを押さえておこう(もちろん効果的なテクニックも中にはあります)。
少なくとも、テストステロンの分泌を増大させることにフォーカスしたトレーニングプログラムの作成はお勧めできない。
例えば、トレーニングにおけるセット間のインターバルについて言えば、一昔前までは、筋肥大を最大化するにはインターバルは短めに設定し(1分間)、筋肉を極限まで追い込んでアナボリックホルモンの分泌を促進させた方が筋肉量の増大には効果的であると広く認識されていたが、現在では筋肉量を効率的に増加させるにはインターバルは長め(3~5分)に取った方が効果的であるとの見解が広く一般に支持されている。
どうしてそう言えるのかについて興味のある人は以下の記事をご覧下さい(詳しく解説しています)。