ワークアウトサイエンスでは、これまでに筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出す各要素、
について詳しく解説してきました(クリックすると各ページに飛びます)。
では、筋トレの動作スピードについてはどうだろうか。
これまでに幾度となく、筋肥大効率を最大化する筋トレの動作スピードについては熱い議論が重ねられてきたが、ようやくひとつの確かな答えを導けそうだ。
まずはウエイトを上げる速度について見ていくことにしよう。
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ウエイトを上げる速度について
これまでの研究報告により、ウエイトを挙上させる際は可能な限り早く挙上させること(つまり爆発的挙上を行うこと)でより多くのモータユニット(筋線維)を動員できるようになり、その結果、メカニカルテンション(=筋肉に加わる刺激)を効果的に増大させられることが示されている。
※メカニカルテンションについては後ほど詳しく紹介
また、ウエイトの挙上速度と筋肥大の関係を調査した別研究[1]においても、脚トレーニングの動作を速く行うことで(挙上1~2秒)、ゆっくりと動作を行うよりも(挙上10秒)、筋肉量が顕著に増加したことが報告されている。
動作をゆっくり行ったグループの筋肉増加率が12~19%であったのに対し、動作を速く行ったグループの筋肉増加率は33~37%であった。
スロートレーニングは筋肥大効率を低下させる
また、その他の研究報告[3]により、ウエイトの挙上速度を意図的にゆっくりと行い過ぎると(いわゆるスロートレーニング)、運動に動員されるモータユニット数が減少し、結果として筋肥大効率が低下することが示唆されている。
例えば、1999年に発表された研究報告[4]によれば、ベンチプレスをゆっくりと行った場合(挙上5秒、下げ5秒)、ベンチプレスを速く行った場合に比べて大胸筋の活性化レベルが最大で36%も減少したと報告されている。
2015年に発表された”レップ速度”に関するメタ分析結果[2]では、筋肥大を最適化するウエイトの挙上速度は1~3秒の範囲に収めておくのが望ましいと述べられている。
次は、ウエイトを下げる速度について見ていくことにしよう。
ウエイトを下げる速度について
歴代のボディビルダーたちの中には、TUT(タイム・アンダー・テンション)すなわち筋肉の緊張持続時間こそが筋肥大のキーファクターであると主張する者も多くいる。
というのも、TUTを長くとることでメカニカルテンション(=筋肥大の主要メカニズム)を増大させ、筋肥大を誘発するシグナルを増大させられると考えられているからである。
理論だけでなく、2012年に発表された研究報告[5]においても、より長いTUTでトレーニングを行うことで筋タンパク質合成(筋肥大効率)が顕著に増大したことが実際に報告されている(トレーニングボリュームが等しい場合)。
つまり、TUTを長くとることでメカニカルテンションを効果的に増大させ、筋肥大のシグナルを増大させることができるのである。
ここで、今一度確認しておこう。
どうしてTUTを長く取ることが筋肥大のシグナルを増大させることになるのか?
それは、今さっき述べたように、TUTを長く取ることでメカニカルテンションを増大させられるからである。
ここでさらに理解を深めるために、筋肥大を引き起こす最も重要なメカニズム「メカニカルテンション」について軽くおさらいしておこう。
メカニカルテンションについて
このメカニカルテンションを増大させる方法、それは「高重量でトレーニングを行うこと」あるいは「中重量のウエイトでオールアウトさせる(=レップ数を増大させる)こと」の2つである[6][7]。
高重量トレーニングでメカニカルテンションを増大させる場合
高重量のウエイトを使用してトレーニングを行う場合、扱うウエイトが重ければ重いほどメカニカルテンションが増大するという訳では決してない。
例えば、1レップしか反復できないような極端に高重量なウエイトではメカニカルテンションを効果的に増大させられないことが研究により判明している[6]。
メカニカルテンションを最大限に増大させるには、以下に示すウエイト重量でトレーニングを行うことが推奨される。
- トレーニング上級者の場合
3~8レップで反復限界となるウエイトを使用
- トレーニング初・中級者の場合
5~12レップで反復限界となるウエイトを使用
このように、メカニカルテンションを増大させるには適切なフォームと可動域に加えて、適切なウエイト重量設定でトレーニングを行うことがポイントとなるのである。
中重量トレーニングでメカニカルテンションを増大させる場合
高重量のウエイトでトレーニングを行うことでメカニカルテンションを増大させられることは分かったが、中重量のウエイトを使用した場合においても、オールアウト(またはその一歩手前まで)するまでウエイト挙上を繰り返せば、最終的に多くのモータユニットが動員され、メカニカルテンションを増大させられることが明らかとなっている。
結局のところ、筋肥大のポテンシャルを引き出すには、高重量ウエイトを扱うか、あるいはレップ数を増大させるかのいずれか(または両方)に帰着するのである。
したがって、筋肥大効率を高めるには、高重量トレーニングを行うか、あるいはレップ数を増やすかして、メカニカルテンションを増大させることを第一優先に考えれば良いのである。
そして、TUTはメカニカルテンションを増大させるための1つのテクニックなのである(TUTを長くとることで、ターゲット筋肉を長時間にわたり強い刺激下に置き、メカニカルテンションを増大できるからである)。
TUTの誤った取り入れ方
例えば、ウエイト重量をわざわざ下げてまでTUTを長く取るようにトレーニングを行うことは、結果的にメカニカルテンションを低下させることになり、筋肥大効率が低下する恐れがある。
また、TUTを長く取ることを意識し過ぎて、ネガティブ動作をあまりにゆっくりと行えば、疲労が増大し1セットあたりのレップ数を減らすことになりかねない。
これらの例は、TUTを優先するがあまりウエイト重量とレップ数に悪影響をもたらす、TUTの誤った取り入れ方の例である。
TUTを取り入れる際の注意点
これまでの内容を全て加味した上で、TUTを取り入れる際は以下の2点に注意しておいた方が良い。
- レップ数を犠牲にしてまでTUTを長く取らない
- TUTを長くとるためにウエイト重量を犠牲にしない
筋トレの動作スピード のまとめ
筋肥大に最適な筋トレの動作スピードについて、これまでに発表されている研究報告を総括すると以下のようにまとめることができる。
- 1レップあたりの時間:最大でも6秒以内
1レップにかける時間は0.5~6秒の範囲にある限り、筋肥大効率に大きな差は生み出さない
- ウエイト挙上速度:爆発的挙上~3秒程度
- ネガティブ動作:1~3秒の範囲
- TUTを意識しつつもレップ数は低下させないように気を配る
- TUTを優先し過ぎてウエイト重量をむやみに下げない
- スロートレーニングは筋肥大効率を低下させる恐れがある
筋肥大のポテンシャルを最大限に高めるには、トレーニングボリュームおよびメカニカルテンションを増大させるようにトレーニングプログラムを組むことが最重要ポイントとなる。
TUTはその次に考慮すると良い(適切にTUTをトレーニングに取り入れば、筋肥大効率は向上します)。
参考文献
[1] Schuenke MD,et al (2012) Early-phase muscular adaptations in response to slow-speed versus traditional resistance-training regimens
[2] Schoenfeld BJ, et al (2015) Effect of repetition duration during resistance training on muscle hypertrophy: a systematic review and meta-analysis
[3] Ronei S Pinto,et al (2013) Relationship between workload and neuromuscular activity in the bench press exercise
[4] KEOGH JUSTIN W.L,et al (1999) A Cross-Sectional Comparison of Different Resistance Training Techniques in the Bench Press
[5] Burd, N. A.,et al (2012) Muscle time under tension during resistance exercise stimulates differential muscle protein sub‐fractional synthetic responses in men
[6]Hatzel, B., Glass, S. C., Johnson, S., & Sjoquist, H. (2013). Effects of Lift Velocity on Muscle Activation During Leg Extension
[7]Sakamoto, A., & Sinclair, P. J. (2012). Muscle activations under varying lifting speeds and intensities during bench press. European journal of applied physiology, 112(3), 1015-1025.