スクワットの深さ を最適化して脚の筋肥大効率を最大化しよう!
これまでに発表された文献では、主として、スクワットの深さとトレーニングパフォーマンスとの関係を調査したものが多く、スクワットの深さと筋肥大との関係を調査した文献はあまり多く発表されていなかった。
しかし、今回紹介する研究報告(上の写真)は、スクワットの深さの違いによりもたらされる筋肥大効果(筋肉増加量)の違いを、長期間(週2回のトレーニングを10週間)にわたり調査したという点において非常に貴重な報告となっており、効率的な筋肥大の方法を日々模索し続ける我々に、非常に有益な情報を提供してくれている。
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スクワットの深さ が筋肥大に与える影響とは
フルスクワットとハーフスクワットではどちらが筋肥大により効果があるのだろうか。
スクワットのしゃがみ込む深さが筋肥大に与える影響を調査するために、過去に一定レベルのトレーニング経験がある17名の男性(平均年齢20歳)を2つのグループ(フルスクワットグループ:FST、ハーフスクワットグループ:HST)に分け、スクワットを週2回の頻度で10週間にわたり行ってもらい、その後、脚の筋肉の増大量を測定した。
スクワットの深さ と筋肥大の関係を調査した実験内容
まずは実験内容を簡単に整理しておこう。
スクワットの深さ
各グループの被験者らが行う、スクワットの深さは以下のとおりである。
- フルスクワットグループ
膝の角度が140°になるまでしゃがみこみ、すぐさまトップポジションへ戻る
- ハーフスクワットグループ
膝の角度が90°になるまでしゃがみこみ、すぐさまトップポジションへ戻る
(リフティングベルト)
なお、スクワット時の脚幅は肩幅に統一され、また、リフティングベルトの使用が許され、スクワットの深さはコーチにより厳密に監視された状況下で実験は実施された。
レップ数およびセット数
本実験では、両グループとも、筋肥大トレーニングとしては非常にオーソドックスなレップ数およびセット数が採用されている(以下参照)。
トレーニングプログラムは、
というように、オーバーロードの原則に基づき、週を重ねるごとに使用するウエイト重量を次第に増加させていき、筋肥大を効率的に達成することができるように、構成されている。
各グループの詳細
フルスクワットグループ:FSTと、ハーフスクワットグループ:HSTのそれぞれに属する被験者らの詳細は以下の通りとなっている。
FST (8人) | HST(9人) | |
---|---|---|
年齢(歳) | 20.7 (0.4) | 20.9 (0.8) |
身長 (cm) | 173.6 (4.1) | 172.3 (5.8) |
体重 (kg) | 63.2 (6.6) | 64.1 (6.1) |
FST 1RM記録(kg) | 78.8 (14.6) | 82.8 (15.2) |
HST 1RM記録 (kg) | 95.0 (16.0) | 96.7 (15.0) |
※FST=フルスクワットグループ、 HST=ハーフスクワットグループ
上の表からも分かるように、各グループに振り分けられた被験者らの身体的特徴や、フィジカル・ストレングスはほぼ等しいことがわかる。
各部位の筋肉増加量(実験結果)
そして、週2回×10週間にわたるトレーニングプログラムの実施後、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像法)を使用して、脚の各筋肉(大腿四頭筋群・ハムストリングス・殿筋)の筋肉増大量を調査した。
その結果が次のとおりである(上のグラフをご覧ください)。
大腿四頭筋群
大腿四頭筋群においては、フルスクワット(+4.9%の筋肉増加)およびハーフスクワット(+4.6%の筋肉増加)の両グループにおいて、互いに同程度の筋肥大効果が認められた。
ハムストリングス
ハムストリングスにおいては、フルスクワットおよびハーフスクワットの両グループにおいて、有意義な筋肥大は認められなかった。
脚の筋トレでも紹介したように、スクワットによりハムストリングスを効果的に肥大させることは難しい
→デッドリフトやルーマニアンデッドリフト等の種目を脚のトレーニングに定期的に取り入れる必要がある。
殿筋
殿筋(お尻の筋肉)については、ハーフスクワットに比べて、フルスクワットを行った場合において筋肥大効率が有意義に高いことが分かった。
フルスクワットを実施した場合の臀筋の筋肉増加量は6.2%であったのに対し、ハーフスクワットの場合は、わずか2.7%に留まった。
また、大臀筋と同じく、内転筋群(内ももの筋肉)においても、フルスクワットにおいて顕著な筋肥大効果が認められた。
また、事情によりフルスクワットが行えない場合は、ヒップスラストなどの大殿筋をダイレクトにアプローチすることのできる種目を取り入れるのが得策である。
筋肥大効率を最大化するスクワットの深さ
これらの実験結果を簡潔にまとめておこう。
大腿四頭筋群の筋肥大
→フルスクワットおよびハーフスクワットで同等
ハムストリングスの筋肥大
→スクワットの深さによらず期待できない
臀筋&内転筋群の筋肥大
→フルスクワットが有効
これらの結果から、筋肥大効率を最優先するには、(ハーフスクワットより軽い重量を扱ったとしても)フルスクワットを行うべきである、と考察することができる。
フルスクワットとハーフスクワットでは・・・
ここでこんな疑問が生まれる。
フルスクワットは、ハーフスクワットと同じウエイト重量を扱うことはできない。
これに対する答えは、次の通りである。
確かに、従来のトレーニングボリュームの定義では、フルスクワットに比べて、ハーフスクワットの方が高重量を扱えるのだから、ハーフスクワットにおいて、トレーニングボリュームがより大きくなるはずである。
しかし、本実験では、トレーニングボリュームを以下のように、より厳密に定義している。
トレーニングボリューム=
負荷×レップ数×バーベルの移動距離
高重量を扱うことはできるが可動域は狭いハーフスクワットと、高重量は扱えないが可動域は広いフルスクワットのトレーニングボリュームボリュームを、バーベルの移動距離を考慮して再定義したのである。
すると驚くことに、両グループにおいて最終的なトレーニングボリュームはほぼ等しい値となったのである。
HSTのトレーニングボリューム=198 kg*rep*m
つまり、フルスクワットは、ハーフスクワットほど高重量は扱えないが、最終的に得られるトレーニングボリュームはハーフスクワットと同程度となることが実験的に明らかとなったのである。
それだけでなく、先述の通り、フルスクワットを行うことにより、ハーフスクワットに比べて、ハムストリングスおよび臀筋(および内転筋群)においてより高い筋肥大効果を得ることができるのである。
フルスクワットの他のメリット
フルスクワットを行うメリットは、もうひとつある。
それは、フルスクワットは、トレーニングテクニックの向上により効果があるということである。
どういう事かと言うと、10週間にわたるトレーニングプログラムを終えた後、各グループに属する被験者らに、フルスクワットおよびハーフスクワットにおける1RM(最大挙上重量)の記録測定を行ってもらった。
つまるところ、これはハーフスクワットばかり行っていてもフルスクワットのパフォーマンスは効率的に向上しないということである。
言い換えると、フルスクワットを行えば、フルスクワットおよびハーフスクワットのパフォーマンスが向上するということを意味している。
よって、長期的な視点で筋肥大を達成していく場合、オーバーロードを達成していく必要があるため、トレーニングパフォーマンスの向上により効果のあるフルスクワットを優先的に行うのが良いと考えられる。
スクワットの深さのまとめ
今回紹介したスクワットの深さと筋肥大効率の関係を調査した本研究の要点を、以下の簡潔にまとめておくので、ぜひ役立てて下さい。
本記事のまとめ
- フルスクワットは、トレーニングパフォーマンスの向上に効果大
- フルスクワットは、臀筋および大内転筋群の筋肥大により効果的
- ハーフスクワットで高重量を扱っても大腿四頭筋群の筋肥大効果は上がらない
- スクワットではハムストリングスを鍛えることは難しい
→DL、RDLあるいはヒップスラストを取り入れるべき
《参考文献》
[1] Kubo,et al (2019) Effects of squat training with different depths on lower limb muscle volumes.” European journal of applied physiology