トップボディビルダーの減量期 ・コンテスト時における詳細データから学ぶ

[記事公開日]2018/06/02
[最終更新日]2020/04/05

トップボディビルダーの減量期

昨今のボディビル、フィジーク人気の高まりに伴い、これからJBBFやNPCJ、さらにはベストボディジャパンといったコンテストに参加しようと考えている人も多いのではないだろうか。

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しかし、いざコンテスト出場を決意し、インターネットでコンテストの準備方法について調べてみたものの、その情報量の乏しさに愕然とした経験はないだろうか。

 

そこで今回は、ボディビルコンテストで5位以内に入賞実績のあるトップボディビルダーたちのコンテスト出場に向けた減量方法、カロリー設定、PFCマクロ設定、摂取サプリメントといったコンテンストで入賞するために必ず押さえておくべき重要ポイントを複数の貴重な文献[1~15]データに基づき科学的見地から詳細に解説していきます。



ボディビル

 

 

コンテストで入賞するためには

 

ボディビルディングやフィジークのコンテストで入賞するためには、筋肉のサイズ(筋肉量)、バランス(対称性)、コンディショニング(体脂肪率の調整)といったコンテストで評価対象となるポイントを当日までに完璧な状態に仕上げなければならない。

そのためには、普段の継続的なトレーニングはもちろんのこと、コンテンストに向けた減量期間において、いかに筋肉を落とさず体脂肪だけを効率的に減らしていけるのかが大きなポイントとなる。

 

このコンテスト準備期間をどう過ごすかで、ステージ上での仕上がりは全く別物になる。

 

ボディビルダーについて

 

今回調査対象となったのは、イギリスのボディビルコンテンスト(BNBF:British Natural Bodybuilding Federation)において5位以内に入賞実績のあるナチュラルボディビルダーたちである。

 

今回の調査で明らかとなったボディビルダーに関する複数のデータを以下に示す。

また、比較のためコンテストに入賞できたビルダーのデータ(入賞)コンテストに入賞できなかったビルダーのデータ(非入賞)を比較できるように配置してある。

 入賞ビルダー非入賞ビルダー
年齢(歳)36.131.8
トレーニング歴(年)14.210.9
競技歴(年)3.52.7
減量前の体重(kg)82.589.2
減量後の体重(kg)73.177.9
体重減少量(kg)9.411.3
週当たりの体重減少量(kg)0.60.5
減量期間(週)23.923.2

 

入賞・非入賞の両ボディビルダーのデータを比較すると、コンテストで入賞するビルダーのトレーニング歴は14年と、非入賞ビルダーの10年よりも長いことが分かる(それに合わせて年齢も高い)。

 

また、コンテスト入賞ビルダーの平均FFMI値は22.74±2.55で、うち2名のボディビルダーのFFMI値が25を超えていた(ナチュラルで到達できるFFMI値はおよそ25が限界であると言われている)。

 

 

コーチの有無について

スクワットの深さ

 

多くのコンテストビルダーは、トレーニング、栄養管理、ポージング等に関する指導を受けるためにコーチをつけることが多い。

今回の調査では、コンテスト準備のためにコーチをつけるコンテストビルダーの割合は約67%であることが分かり、コンテストビルダーが100人いればそのうちの67人はコーチをつけている計算になる。

また、コンテストに入賞できたビルダー(コーチ利用率:60%)とコンテストに入賞できなかったビルダー(コーチ利用率:59%)との間におけるコーチの利用率に大きな差はなく、コーチの有無がコンテンストの結果に直接的に影響するとは言えない(コーチをつけない者にとっては朗報)。


減量期の食事管理について

減量期のフル食

 

筋肉を極力落とさずに体脂肪を効率的に減らしていくには、減量期の摂取カロリーを適切に設定して最適なペースで減量を行うのと同時に、PFCバランスにも気を配る必要がある。

 

コンテスト前の減量ペース

減量時の摂取カロリー

 

今回調査対象となったコンテストビルダーの平均的な減量期間は25週間(約4~5か月)であることが分かった。

また、筋量・筋力を極力維持したまま減量を行う場合、これまでの諸研究[1,2]により減量のペースは週当たり体重の0.5~1%が推奨されている。

 

ビルダーの中には減量を上記ペースよりも速いペースで行う者もいるが、筋量・筋力を保持するという観点からは、十分に長い減量期間を設け、緩やかなペースで行う減量方法が推奨される。

 

 

減量期のカロリー設定について

ハードゲイナー
 減量時期 
タンパク質(g)減量初期254 g
減量中期252.9 g
減量最終期243.7 g
炭水化物(g)減量初期431.1 g
減量中期392.8 g
減量最終期340.6 g
 脂質(g)減量初期64.7 g
減量中期61.7 g
減量最終期45.4 g
摂取カロリー減量初期3214.8 kcal
減量中期3039.5 kcal
減量最終期2660.6 kcal

 

上の表では、3つの時期別(減量初期・中期・最終期)におけるコンテスト入賞ビルダーのタンパク質・脂質・炭水化物の各摂取量および摂取カロリーを示している。

上の表から読み取れるように、炭水化物と脂質の摂取量は減量が進むにつれて次第に減少しているが、タンパク質の摂取量はほぼ維持されていることがわかる。

また、減量期の具体的な摂取カロリーは減量初期:3214kcal、減量中期:3039 kcal、減量最終期:2660 kcalというように段階的に減らしていく必要があるが、これは減量により体重が減少するにつれて消費カロリーも減るため、それに合わせて摂取カロリーを設定し直す必要があるためである。

 

摂取カロリーにおけるPFCの割合は、炭水化物:約52%タンパク質:28%、そして脂質:22%であることが調査により明らかとなった。

これらは減量期に推奨される摂取カロリーとPFCバランス(以下記載)に準じている。

減量期に推奨されるPFCバランス

  • 減量のペース:週当たり体重の0.5%〜1%
  • タンパク質:除脂肪体重1 kgあたり2.3〜3.1g
  • 脂肪:摂取カロリーの 20〜30%
  • 炭水化物:残りのカロリー分を炭水化物で摂取

 

 

1日の食事回数について

 

1日あたりの食事回数については、コンテスト入賞ビルダーが平均6.5±0.9回、入賞できなかったビルダーが平均5.9±1.1回という結果になった。

いずれの場合においても1日当たりの食事回数は6~7回程度となっており、食事回数を増やすことで筋タンパク質合成を高めることができると考えられるが、食事回数をむやみに増やし過ぎると筋タンパク質合成応答が著しく鈍化することが諸研究により分かっているので、1日当たりの食事回数は多くても7回程度に留めておいた方が良いだろう[3]

 

 

PFCバランスについて

筋肉を残して体脂肪だけを落とす減量期



炭水化物(C)について

炭水化物

 

炭水化物は、増量期・減量期いずれの期間においても主要栄養素(摂取カロリーの約半分は炭水化物から補給される)となっている。

主な炭水化物源としては、シリアル、サツマイモなどのいも類、果物、そして野菜である。

また、コンテスト準備期間中はケーキやコーラなどの糖分を多く含む菓子類の摂取を控えるボディビルダーが多いことが分かった。

減量初期における炭水化物の摂取量の体重1 kgにつき5.1 gであり、減量最終期では4.6 gだった。

例)体重80 kgの場合の炭水化物量

減量初期:408 g

減量最終期:368 g

 

また、コンテスト入賞ボディビルダーと非入賞ボディビルダーの炭水化物の摂取量を比較したところ、入賞ボディビルダーは非入賞ボディビルダーよりも明らかに多くの炭水化物を摂取していることが分かった。

入賞ボディビルダー:体重1 kgあたり5.1 gの炭水化物

非入賞ボディビルダー:体重1 kgあたり3.7 gの炭水化物

 

減量期に炭水化物の摂取量を高く維持する戦略には一定の効果が期待できると考えられている。

 

ひとつめは、コンテスト準備の減量期間中であっても炭水化物の摂取量を可能な限り高く維持することで、トレーニングにより枯渇した筋グリコーゲンの補給を円滑に進めて筋肉の回復を促進できるという点[4]。

筋トレと水分補給

 

ふたつめは、トレーニングの前にほんの15 gの炭水化物を摂取するだけでもトレーニングパフォーマンスが大きく向上するという点[5]。

みっつめは、炭水化物の摂取量を極端に減らして減量(低炭水化物ダイエット)を行うと体重は落ちるが、高炭水化物ダイエットに比べて、筋肉の減少量が顕著に高くなることが研究により分かっている点[6,7]。

 

これら3つの理由から、減量時であっても炭水化物の摂取量を極力維持することで、筋肉の回復促進トレーニングパフォーマンスの維持筋量の維持が可能となり、結果的にコンテストの結果に大きく影響する可能性があるのではないかと結論付けられている。

 

したがって、減量期であっても炭水化物の摂取量を減らしすぎるには得策とは言えない。

 

 

タンパク質(P)ついて

高タンパク質食材で筋肥大

 

ボディビルダーが減量期間中に摂取するタンパク質量は、体重1 ㎏につき2.7~3.3 gであることが調査により分かった[8]。

エネルギーが慢性的に不足する減量期間中は筋肉が非常に減少しやすい期間となるため、減量期間中における筋肉量の減少を最小限に抑えるには、増量期(普段)よりも多くのタンパク質を摂取する必要がある[9]。

 

また、一般にタンパク質を多く含む食品は腹持ちが良く満腹感が長く続くため、普段から高タンパク質な食事を心がけることで、空腹感をあまり感じることなく減量期をうまく乗り越えられると考えられる[10]。

寝る前のプロテイン

減量期間に推奨されるタンパク質摂取量:体重1kgにつき2.3~3.1 g [11]より

例)体重80kgの場合、推奨されるタンパク質:184~248 gとなる

 

 

脂質(F)について

 

減量期における脂質の摂取量は三大栄養素(PFC)の中で最も低いことが分かった。これは多くのコンテストビルダーは、低炭水化物ダイエットよりも低脂質ダイエットを好む傾向が高いためであると考えらえる。

減量期における主な脂質源はナッツ類、シード類(チアシードなど)、シリアル類、鶏肉類、白身魚などとなっている。

また、多くのボディビルダーがフィッシュオイル(フィッシュオイルにはカタボリック作用の抑制効果がある)を摂取していることが調査により明らかとなった。

減量期における脂質の摂取推奨量は、体重1kgあたり0.8 gである [12]より

 

一般に、低脂質ダイエットを行うとテストステロン値が減少することが研究により分かっているが[13]、減量期間中に脂質の摂取量を比較的高く保った場合(摂取カロリーの25%)であってもテストステロン値は低下することが別研究により示されている[14]。

 

これらの結果を考慮すると、いかなる減量方法をとったとしてもテストステロン値の減少を防ぐことは難しいため、脂質の摂取量を優先的に維持するメリットはあまり無く、減量期のカロリー設定を行う場合はまずタンパク質と炭水化物の摂取量を高く維持することを優先した上で脂質の摂取量を決定すると良い。

 

 

サプリメントについて

サプリメント



ボディビルダーが減量期間中に良く摂取するサプリメントについては前回記事で詳しく説明しているので興味のある方は以下のリンクからご覧になっていただきたい。

今回の調査により、コンテストに向けて減量を行うボディビルダーは約9種類のサプリメントを活用していることが分かった。

その9種類のサプリメントは利用率の高い順に次の通りである。

  • ホエイプロテイン(利用率:75%)
  • マルチビタミン(利用率:53%)
  • BCAA(利用率:49%)
  • クレアチン(利用率:48%)
  • ファットバーナー(利用率:48%)
  • プレワークアウトサプリ(利用率:42%)
  • フィッシュオイル(利用率:39%)
  • ビタミンC(利用率:24%)
  • ビタミンD(利用率:21%)

 

ホエイプロテイン

 

プレシジョン

トップビルダー山岸秀匡選手が摂取しているホエイプロテイン

 

ホエイプロテインパウダーは主として朝食時・トレーニング後に摂取されている。

また、就寝前にはホエイプロテインよりも吸収速度の遅いカゼインプロテインを摂取するボディビルダーもいることが分かった。

 

 

BCAA

エクステンド

 

BCAAは3種の必須アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)からなるサプリメントであり、トレーニング中におけるエネルギー枯渇時に代替エネルギーとして使用され、筋肉の分解作用を抑制する効果が期待できる。

また、減量中のボディビルダーの中には、食事中または食間に(2~3時間ごとに)BCAAを摂取する者もいるが、1日に必要となるタンパク質を十分に確保している場合に、この行為がどれだけの筋肥大促進効果および筋肉分解抑制効果を生むのかについてはさらなる検証が必要である(少なくとも悪影響はない)[15]。

【海外直送品】Scivation Xtend BCAA 90杯分 (ブルーラズベリー)

 

減量期に使用されるその他のサプリメントについては以下のリンクからどうぞ。

 

 

トップボディビルダーの減量期 ・コンテスト時の詳細データのまとめ

 

今回は、15つの文献データを基にして、ナチュラルボディビルコンテストで入賞実績のあるトップボディビルダーたちの減量期における数々の詳細データを集めてみました。

FFMI値を基にした筋肉発達レベルの評価、減量期のカロリーの設定方法、最適なPFCバランス、食事回数、摂取サプリメントといった各要素は、コンテスト時の仕上がりを大きく左右する重要な要素であり、これらをひとつずつ最適化していくことによって完成度を高めていくことができるはずである。

これからコンテストに出場予定の人たちのお役に立てれば幸いです。