フィジーカーになりたい、ボディビルダーになりたい、そう思いながら日夜懸命にトレーニングに励むトレーニーも多いことだろう。
トレーニング前後の食事内容にそれほど気を配らなくても、筋肉を大きく発達させることはある程度までは可能であるが、その先のレベルを目指していくには、我々が持つ真のポテンシャルを最大限に引き出せるように配慮した綿密な食事戦略が必要になってくる。
トレーニング前後の食事内容を最適化することで、
- 筋肥大効率の最適化
- 筋分解の抑制
- トレーニングパフォーマンスの向上
- スタミナの維持
- トレーニング後の疲労回復の促進
という数々のプラスの効果を期待でき、最終的に我々をワンランク上のレベルに引き上げる手助けをしてくれる。
コンテンツ
筋トレ前の食事(プレワークアウトミール)について
ひとことにプレワークアウトミールといっても、その分量やPFCバランス、または摂取のタイミングといった様々な要素を最適化する必要がある。
これらの要素をひとつひとつ最適化していくことで、トレーニングの成果を最大限に引き上げるプレワークアウトミールを完成させることができるようになる。
筋トレの成果を最大限に引き上げる理想的なプレワークアウトミールの条件を簡潔にまとめると、
- 筋分解の抑制&疲労回復の促進のために十分量のタンパク質を摂取すること
- トレーニング中のスタミナ維持のために十分量の炭水化物を摂取すること
- 十分な水分補給を事前に行っておくこと
の3点が重要ポイントとなる。
それでは各要素の詳細について順番に詳しく見ていこう。
タンパク質について
ご存知のように、筋肥大の効率を最大化する食事管理においてタンパク質の存在を無視することはできない。
これまでも当サイトにおいて何度か紹介してきたが、プレワークアウトミールに限らず、食事の度に筋タンパク質合成(筋肉の合成)の応答を最大化するには、1回の食事につき、良質なタンパク質を20~40 g摂取することが何よりも重要なポイントとなる[1]。
というのも、良質なタンパク質20~40 g中には約3 gのロイシンが含まれており、この3 gのロイシンがmTORシグナル伝達を活性化させ、筋タンパク質合成応答を効果的に誘発する働きを担っているからである[2]。
また、1回の食事につき十分量(約3 g)のロイシンが確保できない場合、筋タンパク質合成の応答を最大化できない可能性が同研究により示唆されているため、この場合は積極的にプロテインパウダーを活用することが推奨される。
例えば、ホエイプロテインアイソレートの場合、プロテインパウダー30 g中に約3.3 gのロイシンが含まれている。
また、鶏のむね肉であれば、約200 g中に3.2 gのロイシンが含まれている。
一般に、筋タンパク質合成レベルは、食事(プロテインパウダー単体)の摂取後、約1時間以内に上限値まで上昇し、その後約3時間でベースライン(元の値)にまで低下することが分かっている。
しかし、プロテインパウダー単体ではなく、タンパク質・脂質・炭水化物がバランス良く配合された食事を摂取した場合、食物が消化器官にとどまる時間が増大し、各栄養素がゆっくりと消化・吸収されるため、筋タンパク質合成レベルは、プロテインパウダーを単体で摂取した時と比べて、長い時間(約5~6時間)にわたり高い状態が持続する。
また、2012年に発表された研究報告[3]によると、ある一定量(個人差があるので一概に何グラムとは言い切れないが20~40 gの範囲のいずれかの量)のタンパク質を摂取することで筋タンパク質合成の応答を最適化することは可能ではあるが(←これは上記で説明した通り)、タンパク質の摂取量をさらに増やすことでアナボリック環境をさらに高いレベルで最適化できる可能性が示唆されている[3]。
この理論はプロテインチェンジ理論と呼ばれている(今度別記事で特集しようかな)。
つまり、より高いレベルで筋力・筋肉量の増大を目指すアスリートの場合は、一般に推奨されているタンパク質摂取量よりもさらに多めのタンパク質を摂取することで筋肥大のポテンシャルをさらに引き出せる可能性があるのである。
プレワークアウトミールとして、トレーニングの1~2時間前までに良質なタンパク質を最低20~40 g摂取しておくことが望ましい。
また、非常に高いレベルでトレーニングを行う場合は、タンパク質の摂取量をさらに増やす(40 g超)ことが推奨される。
炭水化物について
炭水化物はトレーニングにおける主たるエネルギー源となるため、トレーニング前に適切な量の炭水化物を摂取しておくことがトレーニングパフォーマンスを最適化する上で重要となる。
トレーニング前に炭水化物を摂取しておくことの最大の目的は、トレーニング中における血中グルコース濃度を高く維持しておくことである。
これによりスタミナを持続させ、かつ疲労の蓄積を遅らせることができるようになるため、結果としてトレーニングパフォーマンスを長時間にわたり高く維持することが出来るようになるのである。
例えば、体重70 kgのトレーニーであれば、プレワークアウトミールとして50~90 gの炭水化物を摂取しておけば良い。参考程度に、一般的なコンビニのおにぎりには約40 gの炭水化物が含まれている。
脂質について
これまでの研究報告[4]を参考にすると、筋トレ前に脂質をあえて摂取しておくメリットは特に無いと考えられる。
というのも、脂質には筋グリコーゲン(筋トレに使用されるエネルギー源)を充填する作用やアナボリック作用を顕著に加速させる作用はないと考えられているからである。
逆に、筋トレ前に脂質を摂取し過ぎると、満腹になりトレーニングのパフォーマンスに支障をきたす恐れもあるので、筋トレ前に摂取する脂質の量は少なめに抑えた方が良いと考えられる。
しかし、脂質の摂取を完全に排除する必要はなく、むしろ少量の脂質をプレワークアウトミールとして摂取しておくことで各栄養素(タンパク質・炭水化物)の吸収速度が緩やかになるので長時間にわたりエネルギーを供給できるようになる。さらにトレーニング中の空腹感も効果的に抑制することができる。
脂質はプレワークアウトミールとして少量(10 g程度)摂取しておくのが良い。
高強度なトレーニングでは脂質は主たるエネルギー源としては使用されないため、やはり炭水化物およびタンパク質を優先的に摂取しておくことがトレーニングパフォーマンスを高く維持する上でより重要となる。
水分の摂取について
これまでに紹介したタンパク質・炭水化物・脂質もさることながら、プレワークアウトミールでもう一つ忘れてはいけない重要な要素が水分の摂取である。
ほとんどの場合、トレーニング前に行う水分補給はジムに到着してからワークアウトドリンクを飲み、トレーニングを開始するという流れが一般的であるが、ボディビルダーを目指してトレーニングを行う場合、この水分補給の方法にも改善の余地がある。
というのも、2004年に発表された研究報告[5]によれば、補給された水分が体によって使用されるまでに最大で1時間程度の時間を要することが明らかとなっているからである。
そもそも、水分補給はトレーニング前だけではなく、日中を通してできる限りこまめに摂取するのが望ましい。
これらの理由により、高強度なトレーニングで大量に消費する水分をあらかじめプレワークアウトミールと一緒に摂取しておく必要があるのである。
アメリカスポーツ医学会が発表している水分補給に関するガイドラインを紹介しよう。
推奨される水分補給量(体重1 kgあたり)
- 筋トレ4時間前:5~7 ml
- 筋トレ2時間前:2~5 ml
- 筋トレ直前:必要に応じて補給
筋トレ後の食事(=ポストワークアウトミール)について
トレーニング後の栄養補給のタイミングについては、今なお熱く議論が重ねられることも多いが、巷で良く言われている「筋トレ終了後45分以内に食事を摂取しないと筋肥大のチャンスを逃してしまう」という解釈は少々誇張され過ぎた表現である。
なぜそう言えるのかを、一緒に考えてみよう。
タンパク質について
プレワークアウトミールと同じ要領で、トレーニングを終えたら比較的早い段階で良質なタンパク質20~40 gを含む食事(あるいはプロテインパウダー)を摂取するのが望ましい。
こうすることにより、トレーニング後の筋タンパク質合成作用を高め、カタボリック状態を効果的に防止できると考えられる。
先ほども紹介したように、タンパク質・炭水化物・脂質からなるバランスの取れた食事を摂取した場合、筋タンパク質合成レベルは約5~6時間にわたって高い状態が維持される。
仮に、トレーニングの2時間前にプレワークアウトミールを摂り、その後トレーニングを2時間行った場合、トレーニングが終了した時点でプレワークアウトミールの摂取から4時間が経過したことになる。
つまり理論上は、トレーニング終了の時点で、筋タンパク質合成レベルはまだ高い状態が維持されているため、トレーニング後に慌ててプロテインパウダーを摂取する必要はない。
トレーニング後1~2時間の間にポストワークアウトミールを摂ることが推奨されている理由としては次の2点が挙げられる(少々マニアック過ぎるが)。
- プレワークアウトミールの摂取により、トレーニング後においても筋タンパク質合成が依然として高く維持されている
- 筋タンパク質合成の感度はトレーニング後1~3時間経過時点から高まり始める
つまり、アナボリックウィンドウ(=ポストワークアウトミールのタイミング)は我々がこれまでに考えていた筋トレ後45分間のゴールデンタイムよりもずいぶんと長いのである。
ゆえに、筋トレ終了後45以内にプロテインを摂取しなかったからといって筋肥大のチャンスを逃してしまうというような事態は起こり得ないのでご心配なく。
炭水化物について
筋トレ後の炭水化物摂取についても、少し誇張され過ぎた解釈が広く一般に受け入れられている。
例えば、高強度なトレーニングで枯渇した筋グリコーゲン(=筋肉に蓄えられるエネルギー源)をいち早く充填・回復させる目的で、筋トレ直後に吸収速度の速い炭水化物の摂取が強く勧められている現状がある。
しかし実はというと、これまでに発表された研究報告[7]により、筋グリコーゲンの充填はトレーニング後から最大で約24時間かけてゆっくりと行われるプロセスであり、筋トレ直後に素早く炭水化物を摂取したからといって枯渇した筋グリコーゲンの補充がすぐさま完了する訳ではないことが分かっている。
よって、筋トレ直後に栄養摂取を行ったところで満足するのではなく、より長いスパン(24時間単位)で栄養管理を継続的に行うことが、筋グリコーゲンの充填を適切に行うための重要なポイントとなるである。
筋肥大を最適化するための1日を通した食事戦略については以下の関連記事を参考にして下さい。
ひとつ例外として挙げられるのが、1日にトレーニングを2回(例えば、朝晩というように)行う場合である。
この場合は、次のトレーニングでのパフォーマンスを良好に保つ観点から、1回目のトレーニング終了直後速やかに炭水化物の補給を補給を行うことで、筋グリコーゲンの充填効率を高められることが研究により明らかとなっている[8]。
ここでお勧めの炭水化物が、非常に低価格でありながら吸収速度の速いマルトデキストリンである。
このマルトデキストリンをトレーニング終了後速やかに摂取することで、トレーニングで消費された糖質を素早く補給することができる。
また、マルトデキストリンにはインスリンの分泌を促す作用があり、この作用により枯渇した糖分およびアミノ酸を筋肉に素早く届けることができる(アナボリック環境の最適化)。
これら全ての内容を総括するとポストワークアウトミールとして、タンパク質と共に、30~50 gの炭水化物をトレーニング直後~2時間の間に摂取すると良い。
タンパク質(プロテインパウダー)だけを摂取した場合でもインスリンは分泌されるが、少量の炭水化物とともに摂取することでインスリンの分泌を効果的に誘発し、筋タンパク質合成を最大化できると考えられる。
ポストワークアウトミールとしてタンパク質と共に、
- 減量期(摂取カロリーの制限時):約30~50g の炭水化物を摂取
- 増量期:体重1 kgあたり0.75~1.25 gの炭水化物をトレーニング後1~2時間以内に摂取
脂質について
ポストワークアウトミールとしての脂質の摂取については、プレワークアウトミールの時と同じように、特筆すべきことは特にない。
トレーニング後であれば脂質の摂取による満腹感は問題とはならないため、1日あたりの脂質の摂取量に気を付けつつ、脂質は必要に応じて摂取すると良い。
ひとつ例外として挙げられるのが、1日にトレーニングを2回行う場合である。
この場合は、次のトレーニングまでに出来るだけ筋グリコーゲンを充填する必要があるので、ポストワークアウトミールに含まれる脂質量を最小限に抑えることでタンパク質および炭水化物の吸収を素早く行うことが出来る。
ポストワークアウトミールとしての脂質の摂取は各自必要に応じて摂取する。
ただし、1日に2回以上トレーニングを行う場合は、1回目のトレーニング後の脂質の摂取量を10 g以下に抑えることで筋グリコーゲンの充填効率を高め、次のトレーニングでのパフォーマンスを良好に保つことができる。
水分補給について
先ほども紹介したように、水分補給は1日を通してこまめに摂取するのが望ましい(1日当たりの水分摂取目安量は4リットル)。
高強度かつ高ボリュームのトレーニングを行う場合、トレーニング中に消費される水分量はかなり多くなるため、トレーニング後は速やかに水分補給を行う必要がある。
トレーニング後の正しい水分補給の手順を紹介しよう。
トレーニング後の正しい水分補給の方法
- トレーニング前の体重を体重計で測定しておく
- トレーニング後の体重を体重計で測定する
- 体重が減少していたら水分を補給する
- 体重減少量100 gにつき、150 mlの水分を補給する[11]
例)トレーニング前後で体重が300 g減少した場合、(150×3=)450 mlの水分を補給する
筋トレ前後の食事 のまとめ
今回紹介したプレワークアウトミール、ポストワークアウトミールについてのポイントを押さえておけば、筋肥大のポテンシャルを最大限に高めることができる。
より高いレベルを目指していくには、これらひとつひとつのポイントを着実に実行していく緻密(ちみつ)さが求められる。
できることからひとつずつ、ワンランク上の自分を目指すためにベストを尽くしてみよう!
参考文献
[1] Norton LE,et al (2009) Optimal protein intake to maximize muscle protein synthesis: examinations of optimal meal protein intake
[2] Norton, L. E.,et al (2013) Leucine content of dietary proteins is a determinant of postprandial skeletal muscle protein synthesis in adult rats
[3] John D Bosse,et al (2012) Dietary protein in weight management: a review proposing protein spread and change theories
[4] Hargreaves M, et al (2004) Pre-exercise carbohydrate and fat ingestion: effects on metabolism and performance
[5] Coyle, E. F (2004) Fluid and fuel intake during exercise
[6] Wang, Wanyi, et al (2017) Co-Ingestion of carbohydrate and whey protein increases fasted rates of muscle protein synthesis immediately after resistance exercise in rats
[7] Ivy, J. L. (1991) Muscle Glycogen Synthesis Before and After Exercise
[8] Pascoe, D. D.,et al (1996) Muscle Glycogen Resynthesis after Short Term, High Intensity Exercise and Resistance Exercise
[9] Phillips SM,et al (1997) Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans
[10] BJ Schoenfeld,et al (2017)Pre- versus post-exercise protein intake has similar effects on muscular adaptations
[11] Manore, M,et al (2009) Sports nutrition for health and performance