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本記事で分かること
- 筋トレで筋肉が増える理由
- 筋トレを行えば脂肪は筋肉に変わるのか?
- 筋トレをやめれば筋肉は脂肪に変わるのか?
コンテンツ
筋トレで筋肉が増える理由
筋トレをすれば筋肉が大きく発達するのは皆さんご存じの通りである。
これは、筋トレの実施により筋肉(筋細胞)に強いテンション(ストレス)が加わると筋肉の合成を促すシグナルが伝達され、その結果、筋タンパク質合成(筋肉の合成)感度が高まるからである。
そして、筋タンパク質合成の感度が高まったタイミング(通常は筋トレ直後から48時間程度)で、筋肉の材料となるタンパク質を食事から摂取すれば新たに筋肉が合成され、その結果、筋肉は大きく発達するのである。
このとき、タンパク質は筋肉の材料として使用され、炭水化物および脂質は主に、新たな筋肉を合成するのに必要となるエネルギーとして使用されることになる。
筋トレをすれば 脂肪は筋肉に変わるか ?
本記事のメイントピックである「筋トレをすれば脂肪は筋肉に変わるか?」という疑問に対する答えは、ずばり「筋トレをしても脂肪は筋肉に変わらない」である。
理由は以下の通りである。
まず、脂肪はトリグリセリド(別名:中性脂肪)と呼ばれる鎖状分子(複数の原子が鎖状につながったもの)で構成されており、炭素原子(元素記号:C)、水素原子(H)、酸素原子(O)がその分子鎖に含まれている。
一方、筋肉は主にタンパク質(複数のアミノ酸が互いに繋がったもの)、筋グリコーゲン(糖質)、水分、そして筋肉内に含まれる脂肪から構成されている[1]。
そして、筋トレのような筋肉を収縮する運動を可能にしている筋細胞にはBCAA(分子鎖アミノ酸)をはじめとする複数のアミノ酸が含まれており、これらのアミノ酸には窒素原子(N)が含まれている。
また、我々の体内に含まれている窒素原子(N)のほとんどは筋肉内に集中して存在している。
そして先ほど紹介したように、
- 脂肪には窒素原子が含まれていない
- 脂肪から筋肉の主成分であるアミノ酸を合成するメカニズムがない
という理由により、脂肪が直接的に筋肉に変化することはないのである。
事実、脂肪からアミノ酸が体内で合成され得ることを示す報告は発表されていない[2]。
筋肉を増やすにはタンパク質の補給が必要不可欠
今述べたように、いくら体脂肪が体に蓄積されていたとしてもその脂肪が筋肉に変わることはない。
つまり、筋肉を効率的に大きく発達させるには、筋肉の材料となる(窒素原子を含む)栄養素を食事で摂取する必要があるということである[3]。
そして、筋肉の材料となる栄養素とは、もちろんタンパク質のことである。
タンパク質を摂取すると、腸液によってアミノ酸にまで分解され、小腸で吸収された後、筋肉(筋タンパク質)として合成される。
つまり、筋トレにより筋肉を効率的に増やしていくには十分な量のタンパク質を体の外から取り込む必要があるのである。
例えば、体重が82 kgの場合を例に挙げると、1日におよそ(82×2.2=)180 gのタンパク質の摂取が推奨される。
筋トレは脂肪を筋肉に変えないが、脂肪を減らす効果はある
一般に、筋トレにより体脂肪を減らすことは可能ではあるが、それと同時に筋肉量を増加させることはできない。
筋トレにより体脂肪を減らすには、筋トレと併用して消費カロリー>摂取カロリーとなるカロリー制限(=減量)を行う必要があるのだが、このようなカロリー制限下では、新たな筋肉を合成するのに必要となるエネルギーが不足した状態となるため、特殊な場合を除き、一般に脂肪燃焼(脂肪減少)と筋肥大(筋肉増加)は同時に起こり得ないのである。
つまり、減量期間中に筋トレを行えば体脂肪は減るが、それと同時に新たな筋肉を合成することはほぼ不可能[5,6]なのである。
つまり、これらの事柄を簡潔にまとめると以下のようになる。
減量期(消費カロリー>摂取カロリー)に筋トレを行うと、
筋肉は増やせないが脂肪は減らせる
増量期(摂取カロリー>消費カロリー)に筋トレを行うと、
筋肉は増やせるが脂肪は減らせない
しかし、先ほど紹介したように、特殊なケースに限っては筋肥大と脂肪燃焼の両立が可能であることが複数報告されている。
その特殊なケースというのが次の4つのケースである。
筋肥大と脂肪燃焼の両立が可能な4つのケース
- トレーニング初心者
- 筋トレ経験があり、なおかつ筋トレを一時的(長期的)に中断していたトレーニーがトレーニングを再開した場合
- 肥満体質の場合
- ナチュラルでない場合
これら4ケースにおいては、筋肥大と脂肪燃焼の両立が可能であることが複数の研究報告により示されている。
逆に言うと、上記4ケース以外の状況下では一般に、筋肥大(筋肉の増加)と脂肪燃焼(体脂肪の減少)は起こり得ないのである。
脂肪は筋肉に変わる という誤解が生まれた理由
これまでに紹介してきたことを上手く繋ぎ合わせれば、脂肪が筋肉に変わるという誤解がどうして生まれたのかを紐解くことができる。
先ほど紹介したように、上記の特殊なケースを除いて筋肥大(筋肉量の増加)と脂肪燃焼(体脂肪の減少)は同時に起こり得ない。
しかし逆に言えば、上記の特殊な環境下においては筋肉量の増加と体脂肪の減少が同時に起こり得るということである。
例えば、体脂肪率が高い(あるいは肥満体質)の場合、カロリー制限下であっても新たな筋肉を合成するのに必要となるエネルギーが体脂肪を燃焼することで調達されるため、脂肪燃焼と筋肥大の両立が可能となる。
そして、ここで誤解が生まれる。
今説明したように体脂肪率が高い人が筋トレを行うと、上記の理由により脂肪が減るのと同時に筋肉量が増加するため、あたかも脂肪が筋肉に変化したかのように見かけ上は感じられるのである。
これが、筋トレを行えば脂肪が筋肉に変わるという誤解が生まれたひとつの理由である。
筋トレをやめれば筋肉が脂肪に変わるも誤り
同様に、筋トレをやめれば筋肉は脂肪に変わるという考えも正しくないことが分かる。
筋トレを完全にやめてしまえばいずれ筋肉は減り始める。
そして筋トレをやめたにも関わらず、筋トレを行っていた頃と同じような食生活を続けると過剰な摂取カロリーが体脂肪として体に蓄積され始める。
先ほどと同じように、これら2つのプロセスは全くの別プロセスなのだが、なにせこれらのプロセスが同時に起こるため、筋トレをやめればあたかも筋肉が脂肪に変わるかのように勘違いしてしまうのである。
これが、筋肉をやめれば筋肉は脂肪に変わるという誤解が生まれたひとつの理由である。
脂肪は筋肉に変わるか ?のまとめ
本記事では、筋トレを行うと脂肪は筋肉に変わるのか、そして筋トレをやめると脂肪は筋肉に変わるのかという2つの疑問の真相に迫りました。
本記事におけるポイントを以下にまとめておくので参考にして下さい。
本日のTAKE AWAY
- 筋トレをしても脂肪は筋肉に変わらない
- 筋トレをやめても筋肉は脂肪に変わらない
- 筋肥大と脂肪燃焼の両立は特殊なケース以外は困難
- 筋肉を効率的に増やすには体重(kg)×2.2 gのタンパク質を!
参考文献
[1] Du M,et al (2010) Cellular signaling pathways regulating the initial stage of adipogenesis and marbling of skeletal muscle
[2] Hirotsu K,et al (2005) Dual substrate recognition of aminotransferases
[3] Phillips SM,et al (2005) Dietary protein to support anabolism with resistance exercise in young men
[4] Bandegan A,et al (2017) Indicator Amino Acid-Derived Estimate of Dietary Protein Requirement for Male Bodybuilders on a Nontraining Day Is Several-Fold Greater than the Current Recommended Dietary Allowance
[5] Pardue A,et al (2017) Unfavorable But Transient Physiological Changes During Contest Preparation in a Drug-Free Male Bodybuilder
[6] Rossow LM,et al (2013) Natural bodybuilding competition preparation and recovery: a 12-month case study