増量期に付き過ぎた体脂肪をこれから有酸素運動で落とそうと考えているそこのあなた。
あるいは、ボディビル大会に向けて体脂肪率を5~7%台まで下げなければならないそこのあなた。
間違った方法で有酸素運動を行うと、
- トレーニングパフォーマンスの低下
- 筋肥大効率の鈍化
- 最大筋力の低下
といったマイナスの効果を生むことが研究[1~5]により明らかとなっている。
コンテンツ
体脂肪を減らすにはカロリー管理が最重要
割れた腹筋は台所で作られると言われるように、体脂肪(体重)を確実に落とすには継続的なカロリー管理が必要となる。
すなわち、1日あたりの摂取カロリーが消費カロリーを下回るように減量期の摂取カロリー数を適切に設定し、慢性的なエネルギー不足の状態を作り出さなければならない。
これにより体は不足したエネルギーを体脂肪から捻出するようになり、結果として体脂肪が減少していくのである。
カロリー管理だけでは不十分の場合も
体脂肪率を減らすには、消費カロリー>摂取カロリーとなるカロリー管理を行う必要があるのは確かだが、カロリー管理だけでは目標とする体脂肪率に達するのが困難になる場合が多々ある(特に体脂肪率を5~7%台にまで下げたい場合)。
そこでしばしば取り入れられるのが、有酸素運動である。
継続的なカロリー管理に加えて有酸素運動を行うことでエネルギー消費をさらに増やし、さらなる脂肪燃焼を促進させようというのがその主たる目的である。
有酸素運動が筋トレに与える影響
有酸素運動が筋トレに与える影響としてこれまでに報告されているのが、
- トレーニングパフォーマンスの低下
- 筋肥大効率の鈍化
- 最大筋力の低下
といった悪影響である。
有酸素運動が筋トレにこのような悪影響を及ぼし得ると言われている主たる理由はズバリ、有酸素運動を行うことによる筋肉の回復能力の低下である[1,2]。
つまり、有酸素運動を行うことで筋肉が疲労すると、筋肉の回復が妨げられ、結果的にトレーニングパフォーマンスや最大筋力の低下を招き、そして最終的に筋肥大効率も鈍化するのである。
確かに、筋トレを有酸素運動と併用して行った場合、最大筋力および筋肥大効率が明らかに低下したと報告する調査報告はたくさんある[3,4,5]。
しかし、これまでに発表された全ての研究報告が上記調査結果をサポートしている訳ではない。
有酸素運動と筋トレの真の関係
2011年に発表されたメタ分析結果[6]によると、週あたりの有酸素運動の回数および時間が増えるにつれて、筋肥大・最大筋力の両方に対して明らかに悪影響を及ぼすことが判明したという。
さらに面白い報告内容がある。
それは、有酸素運動で使用した筋肉部位のパフォーマンスが顕著に低下するという事実である。
例えば、ランニングで下半身を使用すれば、下半身の筋肉における最大筋力と筋肥大効率に顕著な低下が認められたというのである。
しかし、サイクリングのような全身の筋肉を使用する有酸素運動を行った場合には、最大筋力と筋肥大効率には低下は認められなかったという。
HIIT:高強度インターバルトレーニングについて
このHIITを行うことでランニングや水泳をはじめとする従来の(低強度)有酸素運動と同様の脂肪燃焼効果が期待できるが、HIITを行う最大の利点は何と言っても短時間で運動を終えられる点にある[7]。
それだけでなく、このHIITを行えば、トレーニングパフォーマンスの低下を効果的に防ぐことができる可能性が高いことが複数の研究報告[8]により示唆されている。
また、HIITには、従来の(低強度)有酸素運動を行う場合に比べて高いEPOC効果(後述)を得られることが分かっている[9]。
EPOC効果(またはアフターバーン効果)とは
EPOC効果とは、運動を終えた後もエネルギー消費が高い状態がしばらく持続する効果のことで、筋トレなどの高強度な運動を行った場合、運動終了後最大で約16時間にわたってエネルギー消費が高い状態が持続するとの報告もある。
HIITのような高強度な運動を行う場合、運動中に消費されるのは主として炭水化物だが、EPOC効果により運動後に消費されるエネルギー源は脂肪にシフトする。
つまり、運動後の長い時間にわたり効果的に体脂肪を燃焼することが可能になるのである。
HIITを行うもうひとつのメリット
脂肪燃焼効率をさらに加速させるためにHIITを取り入れるメリットはもうひとつある。
それが運動後の食欲の抑制効果である。
2014年に発表された研究報告[13]によると、体脂肪が約30%の被験者らに強度の異なる有酸素運動を行ってもらった後、いつも通り自由に食事をしてもらい、その後彼らの食事内容を調査した。
その結果、有酸素運動の強度が高くなればなるほど、運動後の摂取カロリーが減少し、食欲が顕著に低下することが分かったのだ。
運動30分後の摂取カロリー(kJ)
- 非運動時:3199±1642
- 従来の有酸素運動:2974±1370
- (通常の)HIIT:2602±1086
- (強烈な)HIIT:2488±1202
上記結果からも分かるように、運動強度が上がるにつれて運動30分後の摂取カロリー数が低下していることが見て取れる。
さらに、強烈なHIITトレーニングを行った場合、運動後36時間にわたって摂取カロリーが低くなる状態が持続することが分かった(他の有酸素運動との比較)。
それだけでなく、被験者らが強烈なHIITトレーニングを楽しめたかどうかの満足度調査においても、他の有酸素運動と同様の満足度が得られたという。
これらの結果を考慮すると、HIITを取り入れることで、HIITを行うことによる脂肪燃焼効果と食欲抑制効果のWアプローチで脂肪燃焼をさらに加速させられると考えられる。
有酸素運動は空腹時に行うべきか
ボディビルダーの中には、より高い脂肪燃焼効果を得るために起床直後などの空腹時に有酸素運動を行う者も多い。
しかし、現在のところ、空腹時に行う有酸素運動の有益性をサポートする論文は発表されていない。
事実、過去の研究報告[11]によれば、空腹状態で有酸素運動を1時間行う毎に筋肉の材料であるアミノ酸が約14 mg減少することが示されている。
また、有酸素運動の前に炭水化物を摂取しても有酸素運動中の脂肪燃焼効率に変化は認められなかったという報告も多数存在する[12]。
空腹時の有酸素運動に関するさらに詳しい説明は、以下の記事を参照して頂きたい。
正しい有酸素運動 の方法のまとめ
これら全ての事柄を考慮して、筋トレの成果を阻害することなく有酸素運動を行うポイントをまとめると以下のようになる。
- 脂肪燃焼を可能にする減量期のカロリーを適切に設定する
- 有酸素運動に頼り過ぎない(カロリー管理が最重要)
- 有酸素運動の頻度・時間は最小限に抑える
- サイクリングのような全身を使う運動を取り入れる
- 可能であればHIITを取り入れてみる
- 有酸素運動は食後に行うようにする
このように体脂肪を効率的に減らしていくには、まず減量期の摂取カロリーを適切に設定し、それに準じた食事管理を行うことが大前提となる。
また、減量期は慢性的なカロリー不足が続く期間となり、筋肉の回復能力は著しく低下する。
したがって、有酸素運動は可能な限り低頻度かつ短時間で行うように心がけ、トレーニングパフォーマンスを可能な限り高く維持することが重要ポイントとなる。
特に、ボディビル大会の出場に向けてカロリー管理と有酸素運動を併用して行う場合は、上記ポイントを厳守することで筋肉量を可能な限り維持したまま効率的に体脂肪を減らすことができるはずである。
<オススメ記事>
参考文献
[1] Nader GA,et al (2006) Concurrent strength and endurance training: from molecules to man
[2] Leveritt M,et al (1999) Concurrent strength and endurance training
[3] Dolezal BA,et al (1998) Concurrent resistance and endurance training influence basal metabolic rate in nondieting individuals
[4] Hakkinen K,et al (2003) Neuromuscular adaptations during concurrent strength and endurance training versus strength training
[5] Hickson RC,et al (1980) Interference of strength development by simultaneously training for strength and
endurance
[6]Wilson JM,et al (2011) Concurrent training: a meta analysis examining interference of aerobic and resistance exercise
[7]Little JP,et al (2010)A practical model of low-volume high-intensity interval training induces mitochondrial biogenesis in human skeletal muscle
[8] Rhea MR,et al (2008) Noncompatibility of power and endurance training among college baseball players
[9] Borsheim E, et al (2003) Effect of exercise intensity, duration and mode on post-‐exercise oxygen consumption
[10] Schuenke MD, et al (2002) Effect of an acute period of resistance exercise on excess post-exercise oxygen consumption: implications for body mass management.
[11] Lemon PW,et al (1980) Effect of initial muscle glycogen levels on protein catabolism during
exercise
[12] Horowitz JF,et al (1999) Substrate metabolism when subjects are fed carbohydrate during exercise
[13] Sim AY, et al (2014) High-intensity intermittent exercise attenuates ad-libitum energy intake