有酸素運動は正しい知識と適切な方法で行えば、筋トレのパフォーマンスが向上し、筋肥大のポテンシャルをさらに高められるということをご存知だろうか。
有酸素運動は「筋肉を分解するからバルクアップ期は有酸素運動をしない方が良い」、「バルクアップ期は筋肉を減らさないよう、大好きなロードバイクもできるだけ控えた方が良い」などと考えているそこのあなた。
これらの心配の必要は全くありません(これから紹介する正しい有酸素運動を実施すれば)。
むしろ、適切な方法で有酸素運動を行うことで筋肥大のポテンシャルをさらに高められるのである。
有酸素運動を適切に行うことで期待できるメリットはざっと次の通りである(後ほど詳しく紹介)。
有酸素運動を適切に行うことで得られるメリット
- トレーニング効率の向上
- (トレーニング)セット数の増大
- レップ数の増大
- トレーニングボリュームの増大
- 持久力アップ
- 脂肪燃焼効率の向上
有酸素運動にネガティブな印象を抱いている人は、是非この機会に有酸素運動に対するマイナスイメージを払拭して頂ければと思います。
この記事を特に読んでほしい人
- 筋肥大のポテンシャルをMAXに高めたい人
- 減量期の有酸素運動で筋肉が減るのを恐れている人
- 普段の筋トレでスタミナ切れを起こしやすい人
- 有酸素運動に対してネガティブな印象を持っている人
コンテンツ
有酸素運動は筋肥大に悪影響?
巷(ちまた)では、有酸素運動と筋トレを組み合わせて行うと筋肥大に悪影響を及ぼしたり、筋肉の発達を妨げたり、はたまた筋肉を減らしてしまうと言われている。
これは、筋トレが筋肉量を増やすための行為であるのに対し、有酸素運動は体内の糖質や(体)脂肪、そして筋肉を分解してエネルギーを取り出す行為であるとの認識から、筋トレと有酸素運動は相反する行為であるとみなされることが多く、その結果、筋トレと有酸素運動を両立して行う行為は筋肥大には悪影響を及ぼすと考える人が多いのである。
しかし、有酸素運動が筋肥大に悪影響を及ぼすのは、有酸素運動を過度に行ったり、不適切な方法で行った場合であり、有酸素運動と筋トレを適切に組み合わせて行えば筋トレの効率を阻害するどころか筋トレの効率を向上させ、結果として筋肥大のポテンシャルを高められることが複数の研究報告[1~6] により明らかとなっているのである。
そして、適切な方法で有酸素運動を行えば増量期および減量期のどちらの期間においても大きなメリットをもたらしくれるのである。
増量期に有酸素運動を行うと:
筋肥大効率がアップ
減量期に有酸素運動を行うと:
脂肪燃焼効率のアップ
つまり、増量期間中であろうが減量期間中であろうが、有酸素運動は適切な方法で行うことで、筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出してくれる強い味方となるのである。
筋トレと有酸素運動の深い関係をよく理解するためにまずは無酸素運動と有酸素運動の違いを簡単に理解しておこう。
無酸素運動と有酸素運動の違い
まず一般に、筋トレのような瞬発力を要する高強度な運動は無酸素運動に分類される。
無酸素運動とは、簡単に言えば、酸素を使用しないで運動に必要となるエネルギーが産生される運動のことで、運動強度の違いにより以下の2つの方法でエネルギーが産生される。
- 非乳酸系:クレアチンリン酸の分解によりエネルギーを産生
最大強度での運動の持続時間は8~12秒程度
例:100m競争
- 乳酸系:酸素を使わずにグリコーゲンを乳酸に分解してエネルギーを産生
最大強度での運動の持続時間は30秒程度
例:400m競争
そして無酸素運動では、有酸素運動時よりも遥かに速い速度でエネルギーの産生が行われる。
ゆえに瞬発力を要する筋トレは無酸素運動に分類されるという訳である。
例えば、1 RMに近い高重量ウエイトで筋トレを行う場合、運動強度が高く非常に高い瞬発力が要求されるため、無酸素運動(特に、非乳酸系)からのエネルギー産生が支配的になる。
その一方、運動強度がぐーんと低くなると酸素を消費する有酸素性のエネルギーシステムからエネルギーが産生されるようになり、無酸素運動よりも(はるかに)長い時間エネルギーを産生し続けられるようになる。
長時間にわたり効率的にエネルギーが産生されるマラソンは有酸素運動の分かりやすい例である。
このように、運動強度の違いによってエネルギーは異なる回路(非乳酸系・乳酸系・有酸素系)から生み出されるのである。
つまり、筋トレのような高強度な運動では無酸素的にエネルギーが産生されるため、一見したところ有酸素運動(以下、有酸素系とする)など我々には無関係のように思えてしまう。
無酸素運動は疲労しやすい
一般に、高重量のウエイトを扱う筋トレはエネルギー消費量が非常に大きい。
例えば、175 kgのデッドリフトを8 reps×4 sets行った場合の消費カロリーはおよそ100 kcalであるとされる[1]。
一方、体重70 kgの人がランニング(9.7 km/h)で100 kcalを消費するにはおよそ1.5 km走る必要がある。
そして、ここでのポイントは、筋トレに必要なエネルギーを無酸素的、あるいは有酸素的に生み出すかで筋トレ時の疲労蓄積の速度に違いが生まれるという点である。
筋トレ中の疲労の原因
筋トレを行えば、当然のことながら疲労が蓄積し始める。
特に、筋トレやスプリント種目といった高強度な運動では、短い時間で無酸素的に大きなエネルギーを生み出す必要があるため、有酸素的に(有酸素運動で)エネルギーを継続的に生み出す運動に比べて遥かに疲労度が高く、疲労が蓄積しやすいと考えられている。
そして、筋トレ中に疲労が蓄積する主な原因として挙げられるのが筋肉の収縮に必要となるエネルギー源の枯渇である。
エネルギー源の枯渇
非乳酸系(無酸素運動)では、筋肉中に蓄えられたクレアチンリン酸を分解することによりエネルギーが素早く産生されるが、このクレアチンリン酸が枯渇するとエネルギーの産生効率が下がり、次第に疲労が蓄積し始める。
ゆえに、高強度なトレーニングを長時間効率的に行いたい人は、牛肉などのクレアチンを多く含む食品を摂取するか、クレアチンのサプリメントを摂取することで、クレアチンリン酸の濃度を効果的に高めることができるため、トレーニング時の持久力(スタミナ)を長時間持続させることができるようになる。
私は、コストパフォーマンスの良いマイプロテインのクレアチンモノハイドレートを摂取しています。
また、乳酸系(無酸素運動)では、筋肉中に蓄えられた筋グリコーゲンを乳酸に分解することでエネルギーが産生されることから、筋トレを長く続けるとに筋グリコーゲンが次第に枯渇し、疲労が蓄積する。
その一方、有酸素系では、上記の無酸素運動(非乳酸系および乳酸系)よりも高効率でエネルギーを産生することができる(ただし、エネルギー産生速度は遅い)ため、結果として疲労が蓄積する速度が緩やかになり、長時間の運動が可能となるとなるのである。
筋トレ中の筋グリコーゲンの枯渇を効果的に防ぎ、トレーニング時の持久力(スタミナ)を長く持続する方法については、以下の関連記事をご覧ください。
筋トレは純粋な無酸素運動?
ここでひとつ疑問が生じる。
それは、そもそも筋トレが本当に純粋な無酸素運動なのか?という疑問である。
結論から言えば、この疑問に対する回答はズバリ、No(いいえ)である。
例えば、一般に無酸素運動であると認識されている200 mスプリント(20秒間の全力疾走)では、約70%のエネルギーが無酸素的に、そして約30%のエネルギーが有酸素的に産生されていることが分かった[2]。
つまり、20秒間のオールアウトとも言える200mスプリントですら、運動に必要となる全エネルギーのうちのいくらかのエネルギーが有酸素性のエネルギーシステムから供給されているのである。
また、BIG3をはじめとする高強度な運動を行う場合であっても、その運動に必要となる全エネルギーのうちの約30%は有酸素性のエネルギーシステムから供給されているのであ。
さらにトレーニングボリューム(セット数およびレップ数)を増大させると、筋トレは無酸素運動よりも有酸素運動の比重がさらに高くなる。
我々はこれらの事実をどのように解釈すればよいのだろうか。
筋トレは無酸素運動と有酸素運動が混じった運動
筋トレは、無酸素運動と有酸素運動が混じった運動である。
つまり、あなたがより強靭な有酸素性エネルギーシステム(=有酸素運動の能力が高い)を有すれば有するほど、有酸素性エネルギーシステムがより高効率でエネルギーを産生するようになるため、トレーニング時の持久力が長時間持続し、その結果、トレーニング時におけるレップ数およびセット数を効果的に増大できるようになるのである。(有酸素運動は、無酸素運動に比べて疲労蓄積の速度が緩やかであることは先ほど紹介したばかりである)
とは言っても、高強度な運動(例えばスクワット)の最中に使用されるエネルギーの大部分は無酸素的に生み出されるのは事実である。
では、我々はセット間のインターバルでどのように筋肉の回復を図っているのか?
実は、無酸素運動で生じた乳酸を代謝したり、枯渇したクレアチンリン酸レベルを回復させるのに必要となるエネルギーは有酸素性のエネルギーシステムから供給されるのである。
筋トレにおける有酸素運動の重要性
筋トレにおける有酸素性のエネルギーシステムは、筋トレの後半に差し掛かるにつれて、さらに重要な役割を担うようになる。
分かりやすく言うと、筋トレの後半では有酸素性のエネルギーシステムからのエネルギー産生がより高い割合を占めるようになるのである。
ここで、運動の前半よりも、後半において有酸素運動がより支配的になることを示した興味深い研究報告[3]を紹介しよう。
実験では、被験者らに最大運動強度(オールアウト)で30秒間エアロバイクを漕いでもらった後、4分間のインターバルを挟んでもらい、これを1セットとしてカウントし、合計3セット繰り返してもらった。
その結果、エアロバイクを漕いで得られた仕事量は、1セット目が18.7 kJであったのに対し、3セット(最終セット)目は13.8 kJとなり、セット数が増えるにつれて疲労が蓄積していることが分かった(これはまあ、当たり前の結果である)。
そして、この実験で最も興味深いポイントは次の点である。まずは下の図を見ていただきたい。
上の図は、上記実験の1セット目(左図)と3セット目(右図)において、30秒間の運動に必要となるエネルギーがどのシステムから、どの割合で産生されているのかを秒単位で測定したものである。
図から分かるように、1セット目と3セット目のどちらの場合においても、最初の6秒間は無酸素運動(乳酸系・非乳酸系)から大部分のエネルギーが産生されているが、6秒から15秒にかけては、有酸素系からのエネルギー産生の割合が増大していることが分かる。
さらに、15秒から30秒の間では有酸素系からのエネルギー産生の割合がさらに高くなっていることが分かる。
そして、疲労が蓄積した3セット目では、1セット目に比べ、有酸素系からのエネルギー産生がより支配的になっていることが分かる。
有酸素運動は適切な方法で行おう
筋トレは継続することで筋肉は大きく発達する。
同様に、有酸素運動も定期的に実施することによって、心肺機能が強化され、酸素摂取能力を高められるため、高強度の運動を行っても酸素不足が起きにくくなり、結果として持久力(スタミナ)が向上する。
つまり、有酸素運動の能力が向上すれば、筋トレで疲労しにくくなるのである。
有酸素運動を行うその他のメリット
有酸素運動の能力を高めることで得られるメリットは“トレーニングパフォーマンスの向上”にとどまらない。
有酸素運動の主たるエネルギー源は、糖質(筋グリコーゲン)および(体)脂肪であるが、有酸素運動の能力が高まれば、運動で消費されるエネルギー源に占める脂肪の割合が増大するため、高い脂肪燃焼効果が期待できるのだ。
さらに、(体)脂肪の燃焼効率が上がるということは、もうひとつのエネルギー源である糖質(筋グリコーゲン)の使用率が減ることを意味する。
つまり、有酸素運動の能力を高めることにより、
- 脂肪燃焼効果のアップ
- 運動時の持久力アップ
という2つのメリットを同時に享受することができるのである。
特に、慢性的にエネルギー不足となる減量期間中は、筋グリコーゲンが枯渇しやすく、トレーニングパフォーマンスが著しく低下しやすい状態となる。
この時、高い有酸素運動の能力を有すれば、高い脂肪燃焼効果と筋グリコーゲンの節約(=トレーニングパフォーマンスの向上)という減量期間中には喉から手が出る程欲しくなる2大メリットを享受できるようになるのだ。
有酸素運動を取り入れるときの注意点
ここまでのところで、有酸素運動の能力を高めることで得られる数々のメリットを紹介してきた。
しかし、これらのメリットを享受するには、正しい知識をもって有酸素運動を実施する必要がある。
例えば、有酸素運動を過度に行うと、筋肉の回復が妨げられ、結果的にトレーニングパフォーマンスや最大筋力の低下を招き、そして最終的に筋肥大効率も鈍化することが報告されている[4,5]。
過度な有酸素運動の実施による悪影響
- トレーニングパフォーマンスの低下
- 筋肥大効率の鈍化
- 最大筋力の低下
すなわち、有酸素運動は筋トレのパフォーマンスおよび筋肉の回復に悪影響を及ぼさない頻度で行う必要があるのである。
筋トレのパフォーマンスを阻害しない有酸素運動の種目・頻度・運動強度・タイミングといった各要素の決め方については、以下の参考記事にて詳しく解説しているので是非ご覧ください。
有酸素運動が嫌いな人はどうすれば良いか
「わざわざ有酸素運動などしなくても筋トレだけしていれば筋肥大のポテンシャルを最大化できるのでは?」という質問が読者の皆さまから今にも聞こえてきそうなので、これについて一言だけ。
確かに、高強度な筋トレの実施により筋肉は大きく発達し、有酸素性エネルギーシステムの能力もある程度は向上する。
よって、これまでに有酸素運動をほとんど行わず筋トレだけを専ら行ってきた人は、既存のトレーニングに有酸素運動を追加することで有酸素運動の能力が強化され、これまでに紹介した諸々のプラスの効果が得られる可能性が高い。
現実問題として、筋トレの時間を確保するだけでも一苦労の現代人(我々)にとって、有酸素運動の時間を確保すること自体が非常に困難である場合が多い。
この場合は、高強度インターバルトレーニング(HIIT)を有酸素運動として実施することで大幅な時間の短縮を実現することができる。
このHIITを行うことでもランニングや水泳をはじめとする通常の(低~中強度の)有酸素運動と同様の効果が期待できる。
さらに、HIITを行う最大の利点は何と言っても短時間で運動を終えられる点にある[6]。
HIITの実施にあたって注意すべき最大の点は次の通りである。
HIITは、高強度かつ短時間の運動であるため無酸素運動の要素も加わってくる。
そのため、人によっては通常の(低~中強度の)有酸素運動よりも疲労しやすいという欠点がある。
したがって、筋トレとHIITをうまく組み合わせるには、HIITを行う種目・頻度・運動強度・タイミングといった各要素を正しく設定する必要がある。
HIITの正しい実施方法については、以下の関連記事にて詳しく解説しているので是非ご覧ください。
有酸素運動と筋トレ の正しい組合わせ方のまとめ
筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出すには、筋トレだけを専ら行うのではなく、有酸素運動を既存のプログラムに適切に組み入れることが最良のプランニングであると考えられる。
筋トレが無酸素運動と有酸素運動の混合運動であることを理解すれば、無酸素運動だけでなく有酸素運動の能力向上に努めることが筋トレのパフォーマンス向上をもたらすことは明白である。
これまで有酸素運動に対してネガティブな印象を抱いていた人は、有酸素運動に対するイメージが少し変わったのではないだろうか。
筋トレの時間を確保するのがやっとで有酸素運動の時間を確保できない人は無理をしてまで有酸素運動を行う必要は無いが、有酸素運動をする機会(同僚、友人たちとのマラソン大会出場等)があれば毛嫌いせず、正しい有酸素運動を心がけ、楽しむようにしよう。
また、減量期間中に有酸素運動を行う場合においても、適切に有酸素運動を行う限り、筋肉量の減少を過度に心配する必要はない。
最後に、今回紹介した有酸素運動のメリットのまとめ、および、筋肥大のポテンシャルを高める有酸素運動の方法について簡潔にまとめておくので是非活用してください。
有酸素運動の能力向上により期待できるメリット
増量期
- 筋肉の回復が速くなる
➡セット数の増大 - 運動の持続時間が増大
➡レップ数の増大 - 疲労蓄積が遅延
➡トレーニングボリュームの増大 - 筋グリコーゲンの節約
➡持久力アップ
減量期
- 脂肪燃焼効率の向上
➡減量の速度が加速 - 筋グリコーゲンの節約
➡トレーニングパフォーマンスの維持
有酸素運動実施時のポイント
- 有酸素運動は週1~2のペースから始める
- 有酸素運動は1回あたり30分を限度とする
- 有酸素運動の強度は少しづつ増やしていく
- 有酸素運動で疲労が増大していないか確認する
- 過度な有酸素運動は絶対に行わない
- サイクリングのような全身を使う運動が望ましい
- 可能であればHIITを取り入れてみる
- HIITは筋トレ後またはオフ日に行う
- 有酸素運動は食後に行うようにする
参考文献
[1] Brown SP,et al (1994) Prediction of the oxygen cost of the deadlift exercise
[2] Spencer MR,et al (2001) Energy system contribution during 200- to 1500-m running in highly trained athletes
[3] Michelle L,et al (1999) Regulation of skeletal muscle glycogen phosphorylase and PDH during maximal intermittent exercise
[4] Nader GA,et al (2006) Concurrent strength and endurance training: from molecules to man
[5] Leveritt M,et al (1999) Concurrent strength and endurance training
[6] Little JP,et al (2010) A practical model of low-volume high-intensity interval training induces mitochondrial biogenesis in human skeletal muscle