空腹時に筋トレ を行うと、筋トレ時に必要となるエネルギーが筋肉を分解することで調達されるため、結果的に筋肉の分解を招き、筋肥大の逆効果になってしまうとの解説がなされた記事を見かけることが多々ある。
当サイトワークアウトサイエンスにおいても筋肥大効率を最適化する上でプレワークアウトミール(筋トレ前に摂取する食事)の重要性を幾度となく紹介してきました。
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空腹時の筋トレ は本当に逆効果?
筋トレの成果を最大限に高めるための食事管理に関する情報がインターネットでいとも簡単に手に入るようになった今日この頃、プレワークアウトミール(筋トレ前に摂る食事)の重要性を認識しているトレーニーも年々増加している。
プレワークアウトミールとして何を摂取するかは人それぞれだが、筋トレ前にしっかりとした食事を摂る人もいれば、プロテインやマルトデキストリンでささっと済ます人もいる(私は大半の場合、これで済ませてます)。
確かに、一般的にはトレーニングのパフォーマンスを最大限に高めるためには筋トレ前に十分な食事を摂っておくことが望ましいとされている。
また、筋トレ中に炭水化物(カーボドリンク)を摂取することでトレーニングにおける筋出力がアップし、疲労感を遅延させる効果があるとの報告もなされている[1]。
果たして、空腹状態で筋トレを行うとトレーニングパフォーマンスおよび筋肥大の効率の低下を招いてしまうのか?
これに対する疑問を今回は解明してみよう。
空腹時の筋トレ のホントのところ
冒頭でも述べた通り、「筋トレ前に何らかの食事を摂っておいた方が良い」という考えは筋トレで消費されるエネルギー源を予め充填しておき、トレーニングパフォーマンスを最適化するという観点から、理にかなっている。
また、「プレワークアウトミールをしっかりと摂っておいたから、エネルギー満タン、パワーがみなぎっている気がする(はずだ)」という精神面においてのプラスの効果をもたらしてくれることもあるだろう。
しかし、多忙等の理由により、筋トレの直前にプレワークアウトミールを摂取し、その後すぐに筋トレを行ってしまうと、それがかえって仇となる(筋トレの逆効果)になる恐れがある。
というのも、胃に食物が溜まった状態でトレーニングを行うと、(特に)スクワットやデッドリフト等のヘビーコンパウンド種目を行う際に腹部が強く圧迫され、それにより吐き気を催したり、腹痛や便意を催してしまいトレーニングを普段通り行えなくなる可能性が生じてしまうのである。
そして空腹時の筋トレに関して最も多くの人が懸念するのが、そう、トレーニングパフォーマンスの低下である。
トレーニーあるあるとして、トレーニング前に食事を摂らなかったせいでトレーニングパフォーマンスが低下している気がして何となくパワーが出づらいような気がしてしまうことが良くある。
これは精神面においてマイナスの効果を生んでしまう。
この考えは、几帳面で真面目なトレーニーが抱きやすい精神的な症状である。
おいおい、ワークアウトサイエンス。
過去記事<カーボドリンクとBCAAを摂取して筋トレの成果を最大化しよう>で筋トレ前・中には炭水化物とBCAAを摂取しておけと言っていたじゃないか、と思っておられる方もおられるはず。
確かに、炭水化物は筋トレ時における主要エネルギー源である。それなのに、筋トレ前・中に炭水化物を摂取してもトレーニングパフォーマンスには大きく影響しないとはどういうことなのか。
実は、我々が普段行う筋トレでは、我々が想像している程、筋グリコーゲン(筋肉に蓄えられるエネルギー源)の量は枯渇しないことが分かっているのだ。
いくつかの論文[4,5]を参考にすると、脚トレなどの過酷な筋トレで消費される筋グリコーゲン量は全筋グリコーゲン量のうち最大で約40%、そして通常の筋トレで消費される筋グリコーゲン量は全体のおよそ20~30%に過ぎないことが分かっているのである[6]。
やはり普段の食事管理が最重要
これまでに、筋トレ前に炭水化物を摂取してもトレーニングパフォーマンスが著しく向上することは考えにくいということを紹介しました(ただし、筋グリコーゲンが充填されているという条件下で)。
つまり、筋トレ前に食事を摂らなければ筋トレのパフォーマンスを最適化できないとの思い込みから半ば無理やりプレワークアウトミールを摂取していた人は、必ずしも筋トレ直前にプレワークアウトミールを摂取する必要はないということである。
筋トレ直前にプレワークアウトミールを摂取し、胃の不快感や吐き気を催してしまい、トレーニングをいつも通り行えなくなることの方がよっぽどの悪となる。
しかし、ここでひとつ、押さえておきたいポイントがある。
それは、上記で紹介した各研究報告の被験者らはいずれの場合においても筋グリコーゲンが十分に充填された状態でトレーニングを行っているという点である。
筋グリコーゲンを十分に充填しておくには
筋トレのパフォーマンスを最適化するには、筋トレのエネルギー源となる筋グリコーゲンを予め充填しておくことが何より重要な作業となる。
そして、この筋グリコーゲンを十分に充填しておくには、1日に必要となる総摂取カロリーを1日の中で3~6回程度の食事に分けて摂取しておけば良いのである(つまり、毎回の食事を大切にするということ)。
例えば、筋トレ前にわざわざプレワークアウトミールを摂取しなくても、それまでに摂った食事により筋グリコーゲンを予め十分に充填しておくことができるという訳である。
前回記事<ボディビルダー向け、筋肥大を最大化する 筋トレ前後の食事 完全ガイド>でも紹介したように、一般に、タンパク質・炭水化物・脂質からなるバランスの取れた食事を摂取しておいた場合、その時点で筋グリコーゲンは十分に充填され、さらに筋タンパク質合成のレベルは食後約5~6時間にわたって高い状態が維持される。
つまり、筋トレの4~5時間程度前にお弁当などのしっかりとした食事を摂取しておけば、トレーニングの1~2時間前にわざわざプレワークアウトミールを摂取する意義はそれほど見当たらないのである(もちろん、増量中でカロリーを積極的に摂取する必要のある人や、お腹がグーグーなる状態で筋トレを行いたくない人は積極的に摂って構いません)。
筋グリコーゲンが枯渇した状態で筋トレをすると
逆に言えば、筋グリコーゲンが枯渇した状態で筋トレを行うと、エネルギー不足によりトレーニングパフォーマンスが顕著に低下する可能性があるということである。
空腹時の筋トレ は必ずしも逆効果とはならない
ボディビルディングやパワーリフティングを主たる目的としてトレーニングを行っている人の場合で、プレワークアウトミールの摂取により満腹感、吐き気、便意等の何らかの症状を引き起こす人は胃に食物が入っていない空腹状態でトレーニングを行うことが望ましいと考えられる。
上記で紹介した研究報告では、長期間にわたり空腹状態でトレーニングを行うことの筋肥大における悪影響は報告されていない。
このような状況下では、無理にプレワークアウトミールを摂取することはせず、消化・吸収の速いカーボドリンクやBCAAをトレーニング中に摂取することで、問題なく筋トレ中のエネルギー不足を回避することができる。
空腹時の筋トレ を避けた方が良い場合
これまでの流れを軽くおさらいしておくと、1日に必要な摂取カロリーをしっかりと摂取している限り、プレワークアウトミールを摂取せずに空腹状態で筋トレを行ってもそのパフォーマンスにはさほど大きな影響を及ぼさないことを紹介した。
しかし、空腹状態で筋トレを行うことを避けた方が良い場合がある。
それは、増量期と減量期を一定期間ごとに設けるボディビルディングを行っている人の場合である。
1日あたりの総摂取カロリーが消費カロリーを上回る増量期間中であれば、空腹を感じる状態でトレーニングを行ってもそれほど大きな問題にはならないが、慢性的にカロリー不足が続く減量期にはある一定の注意が必要となる。
というのも一般に、減量期間中は炭水化物の摂取量を段階的に減らしていく必要があるため、筋グリコーゲンが常に枯渇した状況となりやすい。
このような状況下では、筋トレの1~2時間前までに炭水化物を含むプレワークアウトミールを摂取しておき、筋トレ中にはエネルギー不足を防ぐ目的でカーボドリンク(やBCAA)を適宜摂取するのがより合理的な選択であると考えられる。
空腹時の筋トレ は逆効果?のまとめ
今回紹介したポイントをまとめておくので参考にしていただければ幸いです。
本日のTAKE AWAY!
- 1日に必要となる摂取カロリーを3~6回に分けて摂取している限り、プレワークアウトミールにこだわり過ぎなくても良い
(ただし、筋トレの4~5時間前までには食事を摂っておくことが理想的) - 筋トレ直前にプレワークアウトミールを摂取すると胃の不快感や便意を催す人は、上記条件を満たした上でプレワークアウトミールを省く良い
- 諸事情により、筋トレ前にプレワークアウトミールを摂取できない場合は、消化・吸収の速いマルトデキストリンおよびBCAAを筋トレ前・中に摂取すると良い
- 減量中は可能な限りプレワークアウトミールを摂取した方が良い
参考文献
[1] Ali, A,et al (2017) Effect of mouth rinsing and ingestion of carbohydrate solutions on mood and perceptual responses during exercise
[3]Kulik, J.R.,et al (2008) Supplemental carbohydrate ingestion does not improve performance of high-intensity resistance exercise
[4] Koopman R,et al (2006) Intramyocellular lipid and glycogen content are reduced following resistance exercise in untrained healthy males
[5] Lesmes, G.R,et al (1983) Glycogen utilization in fast and slow twitch muscle fibers during maximal isokinetic exercise
[6] MacDougall, J.D,et al (1999) Muscle substrate utilization and lactate production during weightlifting