減量期に筋肉を落とさずに体脂肪だけを上手く減らしたいと考えるのはトレーニーであれば当然のことである。
しかし、本当にそう言えるのか。
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疑問1.なぜ空腹時の 有酸素運動 が脂肪燃焼により効果があると広く一般に考えられているのか
その主たる理由は以下の通りである。
起床後等、空腹状態が長く続くと血糖値は低下し、その結果、筋肉および肝臓に貯蔵されるグリコーゲン量も低下する。
この状態で有酸素運動を行うと、すでに欠乏状態にあるグルコース(糖分)をエネルギー源として使用することができないため、優先的に体脂肪を分解してエネルギー源を確保しようとする。
さらに、起床後すぐは1日の中でもインスリンレベルが特に低い時間帯であり、この低インスリンレベル状態は有酸素運動時において脂肪がエネルギー源として使用されるのを促進する効果があると考えられている。
こうした理由により、起床後すぐに朝食抜きで1時間程度の有酸素運動を行うと効率的に体脂肪を燃焼させることができると考えられているのである。
しかし、ここで次のような疑問が生まれる。
疑問
空腹時に有酸素を行えば、身体は不足したエネルギーを筋肉を分解することで確保しようとするのではないか?
空腹時の運動はカタボリックを招く?
この疑問に対する回答は以下の通りである。
確かに、空腹状態時には身体は筋肉(アミノ酸)を分解してエネルギー源であるグルコースを作り出すことが研究により明らかとなっている[1]。
この研究報告では、空腹状態で有酸素運動を1時間行う毎に、筋肉の材料であるアミノ酸が約14 mg減少したと報告されている。
➡これは、起床後すぐに朝食を摂らずに有酸素運動を行うと、身体は筋肉を分解してエネルギー源を確保しようとするため、結果として筋肉量の減少を招くことを示唆している。
で、結局のところ結論は?
そう結論付けられる理由を2つ紹介しよう。
空腹時に行う有酸素運動の脂肪燃焼効果は、食事後に行う有酸素運動に比べて、約20%高いことが複数の研究報告により判明している[2]。この点に関しては、空腹時に行う有酸素運動が優勢であると言える。
しかし、ここで注意するべき点がひとつある。
それは、身体は脂肪と炭水化物の両方からバランスよくエネルギー源を取り出そうとする点である。
➡つまり、有酸素運動中により高い割合で脂肪を燃焼した場合、有酸素運動後はその割合が逆転し、次は炭水化物から優先的にエネルギー源を取り出そうとするのである。
逆もまた然りであり、(筋トレなどの高強度な)運動中に、より高い割合で炭水化物をエネルギー源として取り出した場合、運動後はより高い割合で脂肪をエネルギー源として燃焼させるのである。
つまり、空腹時に行う有酸素運動のメリットとも言える“運動中の脂肪燃焼効率が約20%高い”という恩恵を仮に享受したとしても、有酸素運動後は主たる消費エネルギー源が炭水化物にシフトしてしまうのである。
例えば、筋トレなどの高強度トレーニングで優先的に使用されるエネルギー源は炭水化物である。
しかし、“理由その1”にも挙げたように、我々にはアフターバーン効果という強い味方が付いている。
アフターバーン効果
筋トレにより心拍数が上昇し、血液循環が促進されると代謝活動が活発化した状態が筋トレ後数時間は持続する。
これにより筋トレが終わった後でも持続的かつ効率的にカロリー(エネルギー)を消費し続けることができる効果をアフターバーン効果という。
アフターバーン効果は、食事後に行うエクササイズ時においてより高い効果を発揮することが研究[3]により判明している。
さらに、アフターバーン効果により優先的にエネルギー源として使用されるのが、ズバリ脂肪なのである。
有酸素運動 は食後に行おう
空腹時に行う有酸素運動は、筋肉量を減らすリスクを負うだけでなく、有酸素運動後の脂肪燃焼効果”アフターバーン効果”の恩恵を十分に受けられない可能性が高い。
いよいよクライマックスに近づいてきた。
脂肪燃焼に関する最新(2017年)の研究報告
2017年に発表された”有酸素運動と脂肪燃焼に関する”最新の研究報告[4]によれば、体脂肪を最も効率的に落とすためには、
- 消費カロリー数>摂取カロリー数となる食事管理を継続的に行う
- 高強度な運動(つまり筋トレ)を食事制限と併用する
以上2点が、効率的な脂肪燃焼を実現する上で最重要となる要素であり、有酸素運動を食後に行うか、食前に行うかの違いによる脂肪燃焼効果への影響は取るに足らないレベルであると結論付けられている。
したがって、減量期に筋肉を減らさずに脂肪燃焼を効率的に促進するには、
- カロリー収支がマイナスとなるように減量期の摂取カロリーを設定し、それを厳守する
- 減量時は筋肉の減少を防ぐために筋トレを必ず行う
- 脂肪燃焼に有酸素運動は必須ではない(上記2ポイントが極めて重要)
- 有酸素運動のタイミングは特に重要とはならない
- 脂肪燃焼効果を最大限に引き出したい場合にのみ有酸素運動を追加する
という5つのポイントを押さえて正しくアプローチを図ることが重要となる。
このように脂肪燃焼(減量)を効果的に行うには、減量期の摂取カロリーを設定し、それに準じた食事管理を行うことと、減量期における筋肉の減少を最小限に抑えるために筋トレを必ず行うことである。
そして、有酸素運動はこの次に来る。そして有酸素運動のタイミングはこの次の次に来る。
減量におけるポイントを重要度順に並べると、
適切な摂取カロリー設定≧筋トレの実施>>>>有酸素運動の有無>有酸素運動のタイミング
となる。
[1] Lemon PW, et al (1980) Effect of initial muscle glycogen levels on protein catabolism during exercise. [2] Nicholas D. Barwell,et al (2009) Individual responsiveness to exercise-induced fat loss is associated with change in resting substrate utilization [3] Gonzalez JT, et al (2013) Breakfast and exercise contingently affect postprandial metabolism and energy balance in physically active males [4] J. Funct,et al (2017) Effect of Overnight Fasted Exercise on Weight Loss and Body Composition: A Systematic Review and Meta-Analysis
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