筋線維(速筋・遅筋)の比率から、筋肥大トレーニングに最適なレップ数を筋肉の部位別にカスタマイズしてみよう!
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筋肥大に最適なレップ数とは?
筋肉を大きく発達させるには、日々のたゆまぬトレーニングが欠かせないのは周知の事実だが、筋肥大効率を大きく左右する重要な要素として決して無視することができないのが、そう、レップ数の取り方である。
もちろん、これは一般的なガイドラインに過ぎず、最終的には長年の経験と勘を基に、筋肥大により最適なレップ数を自分自身でカスタマイズしていかなければならない。
しかしながら、自分に合うレップ数を適切に設定することは、それほど容易なことではない。
トレーニングを長く経験している人でさえ、自分に合うレップ数の設定方法について頭を抱えてしまう場合が多い。
また現在、非常に数多くのトレーニングプログラムやトレーニング理論といった情報がインターネット上で公開されており、むしろそれらの情報が余りにも多すぎて、一体どのプログラムが自分に最も合っているのかを見定めるのも容易ではなくなってきている。
このような理由から、本記事では簡単な測定(自己診断)により、自分に最も合う筋肥大に最適なレップ数を調べる方法を紹介します。
自分に合ったレップ数を調べてみよう
速筋と遅筋の両方を筋肥大させるレップ数の記事でも少し言及したことがあるが、筋肥大を目的とした場合において、自分に最も合うレップ数を決定するには、以下の3つの要素を考慮する必要がある。
レップ数を決定する3要素
- トレーニングの目的
- 筋線維の比率(速筋・遅筋のバランス)
- 鍛える筋肉部位
ご存知のように、筋肉を構成する筋線維(線維状の細胞)は、速筋線維と遅筋線維の2種類に大きく分けることができる。
そして、それぞれの筋線維の特徴を簡単にまとめると以下のようになる。
速筋(そっきん)
速筋線維は、陸上の短距離走(スプリント)や筋力トレーニングのような瞬発的なスピードやパワーが要求される運動時に動員される筋線維であり、高負荷・低回数(1~8 レップ)でトレーニングを行う場合に動員される。
例えば、2007年に発表された研究報告[2]によれば、高負荷・低回数で行うトレーニングは速筋線維の肥大により効果があり、その一方で、低負荷・高回数で行うトレーニングば遅筋線維の肥大により効果があることが示されている。
遅筋(ちきん)
遅筋線維は、マラソンや遠泳のような持続的な持久力が要求される運動時に動員される筋線維であり、(中)低負荷・高回数(10~20+レップ)でトレーニングを行う場合に動員される。
事実、2012年に発表された研究報告[3]によれば、高負荷(1RMの80%)でトレーニングを行うよりも、低負荷(1RMの30%)でトレーニングを行う方が、遅筋線維の筋肥大により効果があることが報告されている。
最適なレップ数の範囲(競技別)
このように、競技の種類に応じて、速筋線維、遅筋線維のうちどちらの筋線維をターゲットにしてトレーニングを行うのかが異なってくる。
そこで、持久力アスリート選手、パワーリフター、ボディビルダーの3つの具体例から、それぞれの競技に最適となるレップ数の範囲を見ていくことにしよう。
持久力アスリートの場合
マラソンやトライアスロンといった競技における持久力パフォーマンスの向上を目的としてトレーニングを行う場合、遅筋線維を効果的に鍛える必要があるため、低負荷・高回数で行うトレーニングを中心としてメニューを組む必要がある。
パワーリフターの場合
パワーリフティングやウエイトリフティングなどの競技における筋力向上を目的としてトレーニングを行う場合は、速筋線維を中心に鍛えるために高負荷・低回数でトレーニングを行う必要がある。
ボディビルダーの場合
ボディビルディングなど筋肉量の増大(筋肥大)を主たる目的としてトレーニングを行う行う場合は、筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出すため、速筋線維および遅筋線維の両方を鍛えることが望ましい(速筋および遅筋は、鍛えれば肥大するため)。
つまり、ターゲットとなる筋肉部位が、主に速筋で構成されているのなら高負荷・低回数を中心として鍛え、主に遅筋で構成されているのなら低負荷・高回数を中心としてメニューを組んでトレーニングを行えば良いのである。
言い換えれば、速筋と遅筋が50%ずつの比率で構成されているのなら、高負荷・低回数トレーニングおよび低負荷・高回数トレーニングの両方をトレーニングメニューに取り入れて、様々なレップ数の範囲でトレーニングを実施することが望ましいのである。
しかし、ここで話は終わらない。
速筋・遅筋の構成比率には個人差がある
当然のことながら、我々人間の筋肉は単純に速筋と遅筋がちょうど半分半分の割合で構成されている訳ではない。
筋肉部位により、速筋の比率がより高い筋肉、あるいは遅筋の比率がより高い筋肉が存在するのである。
それだけでなく、生まれながらの遺伝的要素や過去のスポーツ経歴により、各筋肉部位における速筋と遅筋の比率にはおおきな個人差があることが分かっているのだ[4]。
背が高い人、低い人がいるのと同じように筋肉の構成比率もまた遺伝的要素に大きく左右されるようなのである。
実のところ、2016年に発表された研究報告[4]によれば、人体の筋肉群において最大の筋体積を誇る脚の筋肉、その中でもとりわけ大腿四頭筋群において速筋・遅筋の構成比率に大きな個人差がみられることが分かっているのである。
具体的に言うと、大腿四頭筋のおよそ95%が速筋線維から構成されている者もいれば、たった10%の速筋線維から構成されている者もいることが分かったのである。
事実、同研究報告によれば、速筋・遅筋の比率といった遺伝的要素を考慮した上でトレーニングプログラムを構成し、それに基づいてトレーニングを実施することで、持久力および筋力の両パフォーマンスがより顕著に向上したと報告されているのである。
言い換えると、鍛えたい筋肉の筋線維の比率を考慮してレップ数を決定することが、トレーニングパフォーマンスを向上させるひとつの確かな方法であると言えるのである。
しかし、実際のところ、どのようにレップ数を自分でカスタマイズしていけば良いのだろうか?
自分に合うレップ数の決め方
それでは実際に、筋肥大効率をMAXに引き上げるための自分に最も合うレップ数を実際に求めてみることにしよう。
前述のとおり、筋肉部位により速筋・遅筋の構成比率は異なるため、主要筋肉(大腿四頭筋、大胸筋、広背筋、上腕二頭筋・三頭筋)ごとに、これから紹介する測定方法を試し、各筋肉に最適となるレップ数をそれぞれ決定すると良い。
1.測定する筋肉を決める
まずは、測定したい筋肉部位を決めよう。
測定したい筋肉部位が決まったら、以下の表から測定で行う種目を確認しよう。
測定部位 | 測定種目 |
---|---|
大腿四頭筋 | スクワット |
大胸筋 | ベンチプレス |
広背筋 | ベントオーバーローイング |
上腕三頭筋 | オーバーヘッドトライセプスエクステンション |
上腕二頭筋 | バーベルカール |
なお、上記種目に馴染みがない場合は、本測定を正しく行うことができない可能性があるので注意したい。
(具体例)スクワットをあまりやったことがない➡正しく診断が行えない可能性が高い
2.測定に使用するウエイト重量を設定する
1 RMの80%の重量のウエイトを準備しよう。
なお1RMについての詳しい説明は、1RM(最大挙上重量)からあなたのトレーニングレベルを診断してみよう!を参考にしてください。
軽く数セットウォームアップを行った後、1RMの80%の負荷のウエイトで限界回数(オールアウト)するまで挙上反復を繰り返そう。
注意:測定の際は、補助者(スポッター)を付け、怪我や事故等が起こらないように努めること
例えば、ハムストリングスの筋線維の比率を測定する種目の候補として考えられるのがデッドリフトである。
しかし、デッドリフトのレップ数を決定づけるのは、ハムストリングスではなく、広背筋が先に疲労してしまうことによる場合が多いため、結果としてデッドリフトではハムストリングスの正しい測定ができない可能性が高いのである。
3.速筋・遅筋どちらの割合が多いか決定しよう
以上の測定において1RMの80%のウエイトを使用して最大で何レップ反復挙上を行えたかにより、その筋肉部位における速筋・遅筋の比率(どちらの筋線維の比率が高いのか)をおおまかに把握することができる。
8レップを下回る場合
もし、1RMの80%の負荷を使用してオールアウトした場合のレップ数が8レップ以下であった場合、その筋肉部位は速筋線維の比率がより高い可能性が高いと言える(あくまで可能性)。
つまり、その筋肉部位を鍛える場合は、高負荷・低回数のトレーニングを中心に行うことでより効率的に筋肥大を達成できると考えられる。
8レップを大きく超える場合
もし、 1RMの80%の負荷を使用してオールアウトした場合のレップ数が8レップを大きく超えた場合、その筋肉部位は遅筋線維の比率がより高い可能性が高い。
つまり、その筋肉部位を鍛える場合は、中負荷・高回数のトレーニングを中心に行うことで、その筋肉部位をより効率的に鍛えることができると考えられる。
8レップ前後の場合
もし、 1RMの80%の負荷を使用してオールアウトした場合のレップ数がおおよそ8レップ(7、8、9レップの範囲)であった場合、その筋肉部位では速筋と遅筋がほぼ同比率である可能性が高いと言える。
つまり、その筋肉部位を鍛える場合は、高負荷・低回数トレーニングと中負荷・高回数トレーニングの両方をバランス良く組み合わせることで、その筋肉部位の筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出すことができると考えられる。
一般的な傾向
一般論として、1RMの80%の負荷設定でオールアウトを試みた場合、ほとんどの筋肉部位において、8レップ前後、あるいは8レップを超えて反復挙上を行える場合が多い。
というもの、実は、(一部の例外を除いて)ほとんどの筋肉部位は速筋線維と遅筋線維がおおよそ半分半分の比率で構成されているのである(もちろん部位により多少は異なるが…)[5]。
ただし、もちろんのことながら例外も存在する。
例えば、スクワットの1RMの記録(実測値)が180 kgである場合を考えてみよう。
このとき、180 kgの80%の負荷設定(つまり、144 kg)でオールアウトを行った場合のレップ数が4レップ程度の人も当然存在する(速筋の比率が高い)。
私はどちらかというとこのタイプに属し、中負荷のウエイトでレップ数を重ねるのが苦手なタイプである。
つまり、このような例外に該当する場合は、レップ数の範囲に若干の変更を加えることで、より効率的に筋肥大を実現していくことができるのである。
1RMの測定が難しい場合
なお、本記事にて紹介した筋肥大に最適なレップ数のカスタマイズ方法は、1 RMの記録を実際に測定する必要があるため、必ずしも全ての人にとって実行可能である訳ではない。
そこで、様々な理由により、1RMの測定が難しい場合は、各筋肉部位における速筋・遅筋の比率のごく一般的な平均値[5]を参考にして、各筋肉部位における最適なレップ数の範囲を決めると良い。
各筋肉部位における平均的な筋線維の比率を以下にまとめてみよう。
平均的な 筋線維 (速筋・遅筋)の比率
主な筋肉部位 | 速筋(%) | 遅筋(%) |
---|---|---|
大胸筋 | 60 | 40 |
広背筋 | 50 | 50 |
僧帽筋 | 45 | 55 |
三角筋 | 45 | 55 |
上腕二頭筋 | 45 | 55 |
上腕三頭筋 | 65 | 35 |
大腿四頭筋 | 65 | 35 |
大殿筋 | 45 | 65 |
腹筋 | 50 | 50 |
ハムストリングス | 45 | 65 |
ヒラメ筋 | 10 | 90 |
腓腹筋 | 45 | 55 |
(※上記値は、複数の研究報告[5]を基に、ワークアウトサイエンスが独自に編集を施した値です。)
上の表を注意深く見てみると、上腕二頭筋およびヒラメ筋において遅筋線維の比率が高いことが分かる。
また、上腕三頭筋において、他の筋肉部位に比べて速筋線維の比率が高いことが読み取れる。
これらの事柄から、各筋肉における筋肥大に最適なレップ数(範囲)は以下のように簡潔にまとめることができる。
- 上腕三頭筋
→高負荷・低回数を中心(5~10rep) - 上腕二頭筋
→低負荷・高回数を中心(10~15rep) - ヒラメ筋
→低負荷・高回数を中心(10~15rep)
なお、ふくらはぎ(カーフ)を鍛える際は、ふくらはぎを徹底的に鍛える2種目と3つのポイントの記事でも紹介している通り、ふくらはぎを構成する腓腹筋(ひふくきん)とヒラメ筋のそれぞれの筋肉の筋肥大のポテンシャルを最大化するために、高負荷・低回数トレーニング(腓腹筋がターゲット)と低負荷・高回数トレーニング(ヒラメ筋がターゲット)の両方を行う方が良い。
また、大胸筋や広背筋などのその他の筋肉群については、上記で紹介した1RMの80%のウエイトで何回挙上反復を繰り返せたかにより、中心レップ数(=中心的に行うレップ数)を各自で決定すると良い。
《具体例》
1RMの80%の負荷でベンチプレスを行い、そのレップ数が4回であったとしよう。
この場合は、大胸筋を構成する筋線維のうち、速筋線維の比率がより高いと考えられるため、大胸筋のトレーニングを行う際は、高負荷・低回数(例えば、5~8レップの範囲)を中心とするレップ数の範囲でトレーニングを行うと良い。
筋線維 の比率から筋肥大に最適なレップ数を決定しよう!のまとめ
今回は少々マニアックな内容となってしまったが、1RMの80%のウエイトで何回挙上反復を繰り返せるかにより、筋肥大に最適なレップ数を決定する方法を紹介しました。
本記事の後半部分でも言及した通り、たとえ1RMの測定を実際に行えない場合であっても、各筋肉部位の筋線維の平均的な比率を参考にして、中心レップ数に変化を加えてみるのも良いだろう。
また、本記事で最も強調して伝えたいポイントは、今回紹介した筋肉部位ごとに中心レップ数を操作する取り組みは、筋肥大効率を高めるひとつの有効な方法であると考えられるが、(一部の例外を除いて)ほとんどの筋肉部位は速筋線維と遅筋線維がおおよそ半分半分の比率で構成されている以上、レップ数を特定の範囲のみに限定するのではなく、より広いレップ数の範囲でトレーニングを行うことが、全てのタイプの筋線維(速筋・遅筋)の筋肥大のポテンシャルを最大限に引き出す最も確実な方法であるということである。
最後に、参考までにワークアウトサイエンスが採用している部位別の中心レップ数を以下にまとめておくので参考にしてみてください。
筋肉部位別の中心レップ数(単位:レップ)
- 大胸筋
ベンチプレス:5~8
ダンベル種目:8~12
ケーブル種目:12~20 - 広背筋
バーベル種目:5~8
ケーブル種目:12~15 - 脚
スクワット:5~8
デッドリフト:5~8
マシン種目:12~20 - 上腕二頭筋
バーベル種目:10~15
ダンベル種目:8~15
ケーブル種目:10~20+ - 上腕三頭筋
バーベル種目:5~10
ケーブル種目:8~15 - 三角筋
バーベル種目:5~10
ダンベル種目:8~12
ケーブル種目:12~20+ - 僧帽筋
バーベル種目:10~25+
参考文献
[1] Brad Schoenfeld (2016) Science and development of muscle hypertrophy
[2] N Jones,et al (2016) A genetic-based algorithm for personalized resistance training[2] Netreba AI,et al (2007) Physiological effects of using the low intensity strength training without relaxation in single-joint and multi-joint movements
[3] Cameron J. Mitchell,et al (2012) Resistance exercise load does not determine training-mediated hypertrophic gains in young men
[4] N Jones,et al (2016) A genetic-based algorithm for personalized resistance training
[5] Bengt Saltin,et al (2011) Skeletal Muscle Adaptability: Significance for Metabolism and Performance